温かい浸透圧


          3


「………で」
 知子は不機嫌そうに、にこにこ顔で自分を見ている目の前の男をにらみつけた。
「どうして授業と授業の合間の十分休みにまで、わざわざあたしの教室に来るんですか?!」
「だってー、知ちゃんの顔が見たかったんだもーん」
 バカみたいなことを恥ずかしげもなく言ってから、その男―――今期天文部部長の北見―――は、自分の胸の上に両手を添え、悩ましげに溜息をついた。
「今日は部活のない日だろ? だからさ、教室にでも来ない限り知ちゃんに会えないじゃない? だからこうして通ってるってわけ」
「だからって来すぎですよ! 今日だけで、もう五度目じゃないですか! ほら、もう自分の教室に帰って下さいよ!」
「うわー、知ちゃんてば冷たすぎるっ! 俺は知ちゃんのことがこんなに好きなのに、どうしてそれを分かってくれな……もご」
 しゃべる北見の口を、慌てて知子は手でふさいだ。
「あたしの教室のど真ん中で、好きだとか大声で言うのやめて下さい! みんな見てるじゃないですか!!」
 自分の口をふさいでいた知子の手をはずし、北見は平然と言ってのける。
「大丈夫だって。このクラスのみんなは、俺が知ちゃんを好きだってこと、もうちゃんと知っててくれてるんだから。今さら恥ずかしがることないって。なあ、みんな、そうだろ?」
 爽やかな笑顔をふりまきながら北見が教室内をぐるりと見回すと、知子のクラスメートたちは、みんな大きくうんとうなずいた。
「ほらね」
 得意そうに胸を張る北見を前に、知子は恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にした。

 天体観測の時に北見に告白されてから、すでに一週間が過ぎている。
「俺、知ちゃんのこと好きなんだ」
 それは、なんの飾りっけもないストレートな告白だった。
 場所は部員全員が揃った天文部の部室である。白んできた空にもはや見る星はほとんどなく、解散時刻を目の前に、みんなでコーヒーを飲んでいた時のことだった。
「ねえ、ちゃんと聞こえた? 俺、知ちゃんのこと好きなんだけど、知ちゃんは俺のことどう思う?」
 突然のことに、知子は口をぱくぱくさせることしかできない。
「な、な、なに言ってんですか、部長?!」
 やっとのことで知子がそう言うと、北見はにこっと笑った。
「なにってもちろん、愛の告白。知ちゃん、好きだ。俺と付き合って」
 知子は顔を赤くした。
 見ると、周りのみんなはじっと二人の会話に聞き耳をたてている。知子はさらに真っ赤になりながら北見の腕を取った。
「ぶ、部長、外で話しましょう!」
 そして、そのままひきずるようにして、北見を校舎外へと走って連れ出した。
 まったく、なにを考えているのだ、この男は?!
 みんなのいる前で堂々と告白するのは勝手だけれど、それじゃあまりにもデリカシーがなさすぎる。というか、恥ずかしいじゃないか。
 なんてことを、息も切れ切れに知子が思っていると、北見がニヤニヤしながら言った。
「知ちゃんって意外と行動派だね。俺をこんなところに連れ出してどうするつもり? 襲うつもりならウェルカムだよ」
 北見のそんなふざけた物言いが、知子をムカッとさせる。
「なに言ってんですか?! みんなのいる前であんなこと言って、恥ずかしくないんですか?」
「恥ずかしくなんかないよ。変なこと言うね、知ちゃん。人を好きになるって、別に恥ずかしいことでもなんでもないと思うけどな。逆に、誇らしいことじゃないか?」
 そんな風に真面目に返答されると、知子も言葉に窮してしまう。
「そ、そりゃ、そうかもしれないけど………でも、だからってみんなのいる前でわざわざ……」
 北見はにこにこする。
「本当に知ちゃんはカワイイなぁ。ま、それはさておき、さっきの返事聞かせてくれる? 知ちゃん、俺と付き合ってくれるの、くれないの?」
 それに対し、知子は真顔できっぱり真顔で答えた。
「付き合うなんてできません。だって、わたし彼氏いますから」
 言ってから、ちょっとはっきり言い過ぎたかなぁ、と後悔する。
 しかし、知子に彼氏がいることを小百合に聞いて知っていた北見は、特別ショックを受けたような様子を見せることもなく、しかし、切なそうに小さく笑った。
「そっか………残念」
 そんな北見の様子を見て、知子の胸はチクリと痛んだ。
 はっきり言い過ぎたことを知子が少し後悔していると、北見が言った。
「知ちゃんの気持ちは分かった。でも、俺が知ちゃんを想い続けることは許してくれないかな? フラれたからと言って、すぐに自分の気持ちに踏ん切りつけるなんてこと、俺にはできないんだ」
「……………」
 自分を見つめる北見の整った顔立ち。悲しげに揺れる二つの瞳。
 それを前にして、だめだ、とは知子にはとても言えなかった。
 そもそも、北見の想いは北見のものである。その向けられた先が自分だからと言って、知子に北見の想いを変えるように言う権利なんてない。
 そう思ったから知子は言った。
「それは………その……か、かまいません」
「ありがとう。知ちゃんは優しいね」
 北見は嬉しそうに、そして、少し幼く見える無邪気な笑顔を浮かべた。見ているだけで、こっちまで幸せな気持ちになれるような、そんな笑顔だった。
 しかし今、知子は心底あの時のことを後悔しているのである。
 あんなこと言うんじゃなかった!
 だってあれ以来、北見はもう自分の気持ちを隠そうという素振りなど微塵も見せず、フルパワー全開で知子に気持ちを表現してくるのである。
 まず、初めて知子の教室にやって来た時がこうだった。
「俺は二年の北見、このクラスの藤崎知子ちゃんに惚れてる男前です。これからちょくちょく寄らせてもらうから、そこんとこよろしく!」
 黒板の前に立ち、高梨高校の女生徒たちを魅了する爽やかな笑顔をふりまきながら、知子のクラスメートたちに挨拶をかました。
 知子は口をあんぐりと大開けしたまま、その場に卒倒しそうになった。
 それからはもう、部活のない日はもちろんのこと、ある日にだって北見は知子の教室に来るようになった。それは朝のショートホームルーム前だったり、昼休みだったり、今みたいな十分休みだったり。
 そして、知子を見ると嬉しそうに言うのだ。
「うっわー、知ちゃんっていつ会ってもやっぱりかわいいね。さすがは俺の惚れた子。サイコーだよ!」
 今ではすっかり知子のクラスの生徒にも馴染んでしまい、たまに質問を受けて勉強を教えてあげたりしていることもある。どうやら北見、顔だけでなく頭もかなりいいらしい。
「いっやー、北見先輩の教え方、すっごく分かりやすくて助かるよ。ありがとな、藤崎」
 クラスの男の子から、なぜか知子が礼を言われる始末である。
 さらに北見の知子ラブラブ行動は、教室の中だけにとどまらなかった。
 移動教室で廊下を歩いている知子を遠くから見かけようものなら、手をぶんぶん振りながら大声を張り上げて叫んでくる。
「あ、知ちゃんだ! おおーい、大好きだよーっ!!」
 近くにいる生徒たちにクスクス笑われながら、知子は顔を真っ赤にして即座にその場から走って逃げるのだ。
 部活に出たら出たで、知子が部室内のどこに言っても隣を陣取り、ぴっとり寄り添って離れない。うっとうしいし、他の部員に対しては恥ずかしいし、迷惑なことこの上ない。
 ただ、やっぱり北見は部長だけあって、かなりの博識らしく、天文について分からないことや不思議に思ったことを訊いたりすると、すぐに分かりやすく的確に説明してくれたりして、それはとてもありがたい。そして、そういう時の北見の顔は、いつものふざけたにこにこ顔とはちょっと違い、とても真面目で凛とした顔をしていて、ついつい知子も見惚れてしまいそうになる。
 それにハッと気付いた時、ものすごく決まりの悪い思いを知子はするのだ。
 だって、自分には彼氏がいるのに。
 いくら顔がいいからって、自分を好きだと言っている相手に見惚れるなんて、そんなの達也に対して不誠実だと思う。
 そんなこんながあって、知子はもう、本当に困っているのである。
「部長、もうすぐチャイム鳴りますよ。早く帰って下さいよ! それに、そこは美香の席なんですから。部長が座っていると美香が座れなくてかわいそうじゃないですか!」
 自分の前の席に座る北見に知子が文句を言うと、そんな北見の隣に座っていた美香がすかさず言った。
「あ、気にしなくていいですよ。北見先輩みたいなカッコイイ人に座ってもらえて、もうあたし、それだけで大満足ですから」
「ありがとね、美香ちゃん。こんな顔でよかったら、もういくらでも見てやって。でも、おさわりはなしね。それは知ちゃんだけの特権だから」
「えー、それは残念」
 二人のバカ話を横目に、知子は不機嫌そうな溜息をついた。
 最近の、この大げさすぎるほどの北見の愛情表現。校内ではもう、すごい噂になってしまっている。
 北見はかっこいい。性格だっていいし、成績だっていいらしい。当然、女の子に人気がある。
 にも関わらず、これまで北見には彼女と呼べるものがいなかった。どんなに女の子に告白されても、優しい笑顔でいつもそれを拒んできた。
 そんな北見が一年の女の子を追い掛け回しているという。しかも、完全な片想いらしい。
 これにみんなが興味を持たないわけがない。昼休みともなれば、二年三年の先輩たちが、ワクワク顔で知子を教室まで見にきたりすることがあるくらいだ。
「よう、北見。おまえの好きな子ってその子か? 噂通りかわいいなぁ」
「そーだろ? おまえ、手出すなよ。知ちゃんは俺の大切な人なんだからさ」
 知子のいる目の前で、北見は友達とそんな会話を笑いながらしたりする。そんな時、知子はもうどうしたらいいか分からないくらい恥ずかしくて、真っ赤になってしまうのだ。
 あー、もう、本当にカンベンして欲しい。
 だいたい知子は、こんなことで気を煩わせている暇なんてないのだ。
 入部テストが終わってから時間に余裕のできた知子は、やっと落ちついて達也に電話することができた。
 知子からの電話に出た達也の第一声はこうだった。
「なんだ、なにか用か?」
 まるで、用事がなければ電話してはいけないかのような、そんな冷たさを達也の口調から知子は感じる。しかし、それに気づかないフリして明るく言った。
「やっと入部テスト終わったの。無事に天文部に入部できたのよ」
「あ、そ」
 やはり達也の返事は素っ気ない。
 想像していたことだけれど、かなり怒っているのかもしれない。これまでずっとほったらかしにしていたのだ。それも仕方ないと知子は思う。
「今までごめんね。でも、これからはいっぱい遊べるから」
「……………」
 電話の向こうとこちら側で、なんとも言えない重苦しい空気が流れる。そもそも、会話がまったく弾んでいない。それどころか、返って傷口に塩を塗り込んでいるような、そんな気さえしてしまう。
 なんと言ったらいいか分からずに知子が黙っていると、その沈黙を破って達也が言った。
「もう切るぜ。ちょっと忙しいから」
「あ、うん、それじゃまた…」
 ね、と最後のひと言を発する前に、受話器の向こうからツーツーという回線の切断された音が聞こえてきた。
 胸が痛くなってうつむき、知子は大きな溜息をついた。二人の間には、知子が思っていたより大きな溝ができてしまっているらしい。
 でも、これはみんな知子のせいだ。高梨高校に入学するため、受験勉強を必死で始めた頃から達也には寂しい思いをさせてきた。考えてみれば、ずい分自分勝手なことをしてきたと思う。
 全部自分が悪い。
 だからこそ、今度は自分ががんばらなくてはと思い、知子はメールとか電話とかを頻繁に達也にし続けた。その都度、達也からの返事や態度は素っ気ないものだったけど、知子はくじけなかった。
 そして、今日の放課後、約一ヶ月ぶりに達也と会う約束を取り付けたのである。これまではずっと、「忙しいから」と、会うことを達也から拒まれていたのだ。
 達也に直に会うのは本当に久しぶりのことになる。天文部の入部テストが始まって以来だった。
 謝って謝って、これまでのことを達也に許してもらおう。心から謝れば、きっと達也は許してくれる。自分が悪いんだから、何度でも頭を下げよう。
 そしてまた、あの付き合い始めた時に撮った写真のように、人もうらやむ仲のいい二人に戻るのだ!
 そんな闘志に燃える知子を、不思議そうに北見がのぞきこんだ。
「どうしたの、知ちゃん。なんだかすっごく怖い顔してるよ?」
「な、なんでもありません」
 ドアップで迫る北見から、慌てて知子は体を反らせて距離を取った。近距離で見る北見ときたら、それはもう本当に男前で、さすがの知子でも胸がドクンと跳ねてしまう。
 それに気づかれたくなくて、努めてぶっきら棒に知子は言った。
「それより、本当にチャイム鳴りますよ? 早く帰ったらどうですか」
「俺のこと心配してくれるの? うわー、なんか嬉しいな」
 無邪気な笑顔を、北見はその端整な顔いっぱいに浮かべた。笑うと幼くなるんだな、なんてことを思いながら、また自分が北見に見惚れてしまったことに気付いた知子は、ハッとして顔を背けた。
 なに見惚れてるのよ、バカバカバカ!
 そんな風に、悶々と自己嫌悪におちいっている知子に、
「ねえ、今日は部活もないことだし、放課後デートしない?」
 なんてことを北見が言ってきたものだから、知子はもう本当にムカッとしてしまったのだ。人の気も知らないで好き勝手言いやがって、と、恨みがこもる。
 だから、にっこり笑いながら意地悪口調で言ってやったのだ。
「部長とデートなんてできません。だってわたし、今日は彼氏とデートですから。すっごく楽しみなんです。なんせ、入部テストのせいで、これまでろくにデートもできなかったもんですからね。あー、ほんっと楽しみだわー」
 そして、ザマーミロ、なんて思いながらツーンとそっぽを向いてやった。いつも恥ずかしい思いをさせられているのだ。たまにはやり返さないでどうする?!
 なんんてことを思いながら、しばらく顔を背けたままでいた知子は、急に辺りが静まり返ったことに気づき、不思議に思って教室中を見回した。
「あ、あれ、みんなどうしたの?」
「おい、藤崎」
 クラスメートでそこそこ仲のいい男の子が、少し離れたところから話しかけてきた。ちょっと怒ったような顔をしている。
「おまえ、今のはあんまりじゃねーか?」
「そうよっ、自分に好意を持ってることが分かってる相手に対して、ひどすぎるわよ!」
 他の女の子も言う。
 見回すと、その場にいるほとんどの生徒が、怖い顔をして知子をにらんでいた。
「え、な、なに? なんでみんな急に本気モードで……」
 慌てふためく知子の方を、チョンチョンと美香がつついた。そして無言のまま、同じ指で北見を指差す。
「!」
 そこには物憂げで、切なそうで、いつもの明るさからは想像もできないほど、静かにうつむく北見の姿があった。
 驚きでなにも言えないままでいる知子の視線に気づいた北見は、にこっと悲しく笑った。
「そっか、彼氏とデートなんだ。よかったね、知ちゃん。楽しいデートになるといいね」
「………あ…」
 なにかを言いかけた知子の前で、北見は立ち上がった。
「それじゃ、教室に戻るわ。うかうかしてると、本当にチャイム鳴っちゃいそうだから」
 そう言って軽く手を振って立ち去る北見の顔は、もうさっきまでの胸をつくような表情の片鱗さえ見せず、いつもの明るくへらへらした北見そのものだった。が、返ってその笑顔が痛々しく胸をつく。
 決まり悪い思いが、知子の胸に渦巻いた。
 幼い子供をいじめてしまったような、そんな罪悪感。
「北見先輩って、本当に知子のこと好きなのね」
 いつの間にか自分の席に座っている美香が、目を細めて知子を見ていた。
「普通、なかなか言えないよね。楽しいデートになるといいね、なんてさ。先輩って、すごく優しい人なのね。知子、そう思わない?」
 含むところのありそうな物言いをする美香を、キッと知子はにらんだ。
「な、なによ。言いたいことがあるんだったら、いつもみたいにハッキリ言ったらどうよ?」
「それじゃ言わせてもらうけどね」
 美香が知子の目をのぞき込んだ。その視線は、極めて冷たい。
「さっきのはひどすぎると思う。知子サイテー。人間失格。無神経女。性格ブス」
「ち、ちょっと!」
「だって、北見先輩は知子のこと好きなのよ? そんな人に、彼氏とデートなんです、楽しみ〜、なんて言ったりしてさ。あれじゃ誰だって傷つくわよ」
「……………」
 美香の言っていることは分かる。でも、知子だって北見を傷つけようとしてあんなことを言ったわけではない。
「えー、彼氏とデートなんて嫌だよー。そんなのキャンセルして俺とデートしよーよー」
 いつものノリで、北見がそんな風に笑いながら軽く返してくると思っていたのだ。
 だから、あの悲しげな北見を見た時は、もう本当に声が出ないほど驚いてしまった。胸が激しく痛んだ。
 今になって思い返してみても、本当にひどいことをしてしまったと自分でも思う。
 去り際に残していった、いつもと変わらない北見のあの笑顔が頭から離れない。
 美香の言う通り、自分はサイテーだ。
 思考の深みにはまり、知子がドーンと落ち込んでいると、それを見ていた美香が呆れたような顔した。
「ほらほら、もうそんな顔しないの。傷つけた相手より、傷つけた本人の方が辛そうな顔してどうすんのよ。それも相手に対して失礼よ」
「………うん、そうだね」
 北見は笑っていた。笑顔で教室から出て行った。
 あれはきっと、知子を気づかってのことに違いない。今みたいに知子が落ち込まないでいられるように、無理して笑顔を作ってくれたのだ。
 知子は今、初めて北見の優しさに触れた気がした。
 いつも明るく爽やかで、みんなが認める男前なのに気取ったところは全然ない。話をすると楽しくて、勉強も教えてくれたりなんかして、知子のクラスでもすぐに人気者になった。
 これまで客観的に考えたことはなかったが、今こうして冷静に思い起こしてみると、北見はとてもいい人ならしい。しかも、超がつくほど。
「でも、だからって、どうしろって言うのよ?」
 授業開始のチャイムを聞きながら、知子は小さく呟いた。
 だって、知子には彼氏がいる。
 どんなに北見がいい人で、どんなに知子のことを深く想ってくれていようと、その気持ちに応えてあげることはできない。
 ―――楽しいデートになるといいね―――
 そう、だからせめて、そう言ってくれた北見のためにも、今日の達也とのデートを楽しいものにしようと知子は思った。
 亀裂の入った達也との仲をきちんと修復し、元通りの幸せなカップルに戻る。そして、北見にもはっきり言うのだ。
 もう、自分を思い続けることをやめて欲しい、と。
 自分に縛り付けられている悲しい恋心を解放し、早く北見が次の恋を見つけられるよう、その手伝いをしてあげよう。きっぱりとあきらめさせてあげよう。
 北見には、自分なんかよりもっと素敵な子が相応しい。
 そう思うと同時に、次に北見が好きになるのはどんな子だろう、と、そんなことを考えた知子の胸が、なぜだかひどく痛んだ。
 でも、その理由は考えない。
 考えたら、なんだかとても怖いというか、いけない結論が出そうだったから、知子は考えないことにした。


 そんなこんなあったせいかどうか。
 放課後、達也との待ち合わせの場所である駅前に立つ知子は、なんとも言えない複雑な気持ちを胸に抱えていた。
 でも、これじゃいけない。
 とにかく今日は、なんとしても達也と仲直りしなければならない。
 これまでのことを、許してもらわなければならない。
 余計なことは考えない。
 気持ちを切り替えてリラックスし、知子が携帯電話の待受け画面で時間を確認した時である。
「知子」
 後ろから、達也の声が聞こえた。
 そして、振り向いた知子は、そこに見たものに驚いたあまり、そのまま固まってしまったのである。

 達也は、隣に小柄でかわいらしい女の子を同伴していた。





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