待ちに待った楽しい夏休みがやって来た。
とは言っても、俺が愛するマドカとラブラブの日々を送っているかと言うと、そういうわけではない。
俺は野球部だ。だから、ほぼ毎日、練習に明け暮れている。
「せっかくの夏休みだって言うのに、なんだって、こう毎日毎日練習ばっかしなけりゃならないだよ。あーあ、マドカとデートしてーなー」
そんな俺の呟きを聞いた野球部のキャプテン今西が、俺のケツに蹴りを入れた。
「バーカ、なに甘えたこと言ってんだよ。俺たちは甲子園目指してるんだぞ! しゃきっとしろ、しゃきっと」
夏の大会に敗退した今、三年生はすでに引退している。新キャプテンとなったばかりの今西は、やたらと張り切っていて、正直、ちょっとウザい。
ケツを蹴られてムッとした俺は言った。
「痛てーな! やめろよ、痔になったらどうすんだ!」
「え、おまえ痔なの? ご、ごめん、大丈夫か? ちょっと見せてみろ」
グランドの真ん中で、いきなり俺のズボンを下ろそうとする今西。
やめろ、この変態。
「いや、だから痔じゃないって」
「隠すなって。俺たち同じチームの仲間じゃないか!」
だからって、どうしておまえに俺の尻の穴を見せなきゃならないんだ?!
半分下ろされたズボンを俺が急いで上げていると、今西がちょっとモジモジしながら言った。
「実はさ、おまえに相談にのってもらいたいことがあるんだけど」
「相談? なんだよ、俺なんかでいいんだったら、いくらでも話聞くけど」
「本当か?! ありがとう。感謝のしるしに、やっぱおまえの痔の具合を見てやるよ」
今西は嬉しそうにそう言って、また俺のズボンを脱がそうとする。だから、俺は痔じゃないって。
「い、いいよ。それより、相談ってなんだ?」
「うん……実はさぁ、俺、好きな子がいるんだよね」
体の大きい今西が、えへへ、とか笑いながら体をナヨナヨさせて頬を染めている姿は、言っちゃ悪いが気色悪い。が、俺はガマンして笑顔で言った。
「へー、相手は誰なんだ?」
「マネージャーのミドリ」
ミドリと言えば、今年入ったばかりの一年生マネージャーだ。気が強いところもあるがカワイイ子で、部員たちからの人気も高く狙っているヤツも多い。
もちろん、俺にはマドカという最高の彼女がいるから、ミドリに心を奪われるなんてことはないけどね。
「だったらさ、早く告白した方がいいんじゃないの? まだ言ってないんだろ?」
「うん、でも、なんて言ったらいいんだ?」
おまえはお子様か? それくらい自分で考えろ。
「好きだから付き合ってくれって言ってみれば」
「それじゃ芸がないだろう」
不満そうに言う今西。おまえは芸人か? 告白して笑いが取りたいのか?
「俺はシンプルな方がいいと思うよ。素直に気持ちを相手に伝えれば、それでいいんじゃないか」
「素直にか………」
腕を組んでしばらく考えていた今西が、よし、と頷いた。かと思うと、少し離れた所にいたミドリに猛ダッシュで駆け寄る。
遠目に、今西がミドリになにかを一生懸命に言っているのが見えた。
速球だな、今西。もっと時間と場所を考えろよ。
俺は一応、うまくいきますように、と心の中で祈ってやった。
そうしたら、俺が祈っている最中に、今西はなぜかミドリに平手打ちを食らわされ、猛ダッシュで俺の所に戻ってきた。
せっかく祈ってやったのに。神様なんてやっぱりいない。
「どうしたんだ、今西。なんで殴られたんだよ」
今西の顔には、叩かれた手形がクッキリとついている。頬ではなく、顔面いっぱいに。
どんな殴り方したんだよ、ミドリ。
そんなことを考えていると、今西が俺の頭をガシッとつかみ、額に頭突きを食らわせてきた。
ああ、目から火花が散る。
「い、いきなりなんなんだよ!」
俺はそう言うと、くらくらする頭を押さえて今西の股間を蹴り上げた。
「ぐおっ!」
ケツを高く上げてその場にうずくまり、股間を押さえて苦しみながら今西が言った。
「お、おまえの言う通りにしたら、ミドリに嫌われた」
「人のせいにするな。おまえ、ミドリになんて言ったんだよ」
「好きだ、抱かせてくれって」
「アホか、おまえは! そんなこと言ったら、嫌われるに決まっているだろ!」
「だって、ツヨシが素直に自分の気持ち言えって言ったから」
限度ってものがあるだろう。
股間の痛みに苦しんでいる今西に俺が手を貸して立ち上がらせていると、すごく恐い顔したミドリが、ゆっくり歩いてやってきた。
「こいつが言えって言ったんだ!」
いきなり俺を指さして、今西が叫ぶように言った。
その途端、ミドリの手のひらが俺の顔面にクリーンヒット。
ああ、目から火花が散る。
あまりにも鼻骨が痛かったら手をあててみると、そこに鼻血が。
その鼻血を見て、顔を青ざめさせてミドリが言った。
「いやだ、ツヨシ先輩。あたし見て欲情してるんですか?! この変態野郎!」
「おまえ、ミドリが好きだったのか?! だから俺にあんなデタラメを!」
鼻血垂れ流す俺の首を、今西が両手でしめあげる。
違うって。これは殴られたから出たんですって。
それに今西、おまえは俺にマドカという最高の彼女がいるって知ってるだろう。
頭にきた俺は、再度今西の股間を蹴り上げてやった。
口から泡を吹き、地面に倒れる今西
それを見て、ミドリが言った。
「うわぁ、カニさんみたい。かっわいー♪」
楽しそうなニッコリ笑顔。
ミドリ、おまえちょっとおかしいぞ。同情とかしてやったらどうなんだ。
そんなことを思いながらも、俺は言った。
「あのさ、ミドリ。変なこと言ったかもしれないけど、今西は純粋にミドリのことが好きみたいなんだ。だから、ちょっと考えてやってくれないか?」
「イヤです」
ミドリの速球。今西、憐れなヤツ。
「なんで? こいつ、いいヤツだぞ?」
「だって、あたしはツヨシ先輩のことが好きだから」
ミドリ、あれが好きな人に取る態度なのか?
しかし、突然コクられて、俺も困ってしまった。だって俺にはマドカがいるんだから。他の女と付き合う気なんて、俺にはさらさらない。
そうハッキリ言おうとした時、地面に転がっていた今西が言った。
「やめとけ、ミドリ。こいつは……」
そうだ、言ってやってくれ、今西。俺には彼女がいるんだと。指折りの美少女なんだと。
「こいつは痔だぞ。しかもいぼ痔だ」
「――――――おい」
「先輩、いぼ痔なんですか?! 超キモーイ! 切れ痔なら、まだガマンできたのに」
汚物を見るような目で俺を見るミドリ。
だから俺は痔じゃないって。つーか、なんで切れ痔がよくていぼ痔がダメなんだ。その差を教えてくれ、ミドリ。
「いや、だから俺は痔じゃないよ」
「それじゃ、確かめてみよう」
そう言って、今西がまた俺のズボンを脱がそうとする。
だから、やめろって、この変態!
「あたしも見たーい。痔って見たことないから」
ミドリまで一緒になって、俺のズボンを脱がそうとする。
その後、俺は必死になって二人から逃げ続けた。野球の練習なんて、まったく出来なかった。こんな俺たちが甲子園に出場できるはずがない。
二度と人の恋愛相談にはのらないと、俺は心に誓った。
つづく
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