■ No Title Life ■

   マドカは最高!



 来週から一学期最後の試験が始まる。
 自分で言うのもなんだが、俺は頭がいい。学年では、いつも50番以内には入っている。そして、俺の愛するマドカはと言うと、後ろから数えた方が早いくらいの成績でしかない。
 だから俺は、ここぞとばかりに頼りになる彼氏を演出しようと思い、ウキウキしながらマドカに言った。
「なあ、マドカ、一緒に試験勉強しない?」
「いやよ」
 つれないマドカの返事。しかし、ここでひるんではいけない。
「なんで? もう誰かと約束してるのか?」
「うん、矢田くんと勉強するの」
 矢田と言えば、同じクラスの優等生。成績はいつも学年トップで、それを鼻にかけた嫌なヤツだ。
 それにしても、なんで男?
 一緒に勉強するなら、女子同士でやるのが普通だろ?
「二人だけで?」
 何気なく俺が聞くと、マドカは平然と言った。
「そう、二人だけ」
 そんなことを、俺が許しておけるわけがない。
「なあ、俺と勉強しようぜ。ちゃんと分かりやすく教えてあげるからさ」
「いやよ。だって、ツヨシってバカなんだもん」
 マドカは俺のことを、相当なバカだと思っているらしい。そりゃ、矢田ほどではないが、少なくともおまえよりはいいぞ、マドカ。
 そう言いたい気持ちをグッとこらえ、俺は作り笑顔で言った。
「そ、そんなこと言わずにさ。あ、そうだ。だったら俺も一緒に勉強させてくれよ。三人でやろう、な?」
「えぇ〜? ツヨシもぉ?」
 すごく嫌そうな顔のマドカを見て、アッパーカットを食らわされたような気持ちになる俺。
「い、いいじゃないか。俺も一緒にさせてくれよ」
「うーん、でも、矢田くんに訊いてみないと………」
 マドカがそう言って首を傾げた時、ちょうど矢田が教室に戻ってきた。
「よし、それじゃ矢田に訊いてみよう」
 俺はマドカの手を引いて矢田のところに駆け寄った。
「なあ、矢田、マドカと一緒に試験勉強するんだろ? 俺も一緒にやらせてくれよ」
 本当は口をきくのも嫌な相手だが、愛のため、俺はガマンして笑顔で言った。
 しかし、いつ見ても矢田っていうのは不思議なヤツだ。
 顔はまあ、それなりに男前で、優等生らしく黒ぶちの眼鏡をかけている。身長は俺よりちょっと低いくらい、と、ここまでは普通なのだが、なぜか髪型がモヒカンなのだ。それに、服装自由のウチの学校で、いつも学生服を着ている。
 ウチの学校で、こいつのことを知らない生徒は、多分、一人もいないだろう。
 そんなこと考えていることを顔に出さず、ひたすら笑顔で懇願するように俺は言った。
「なあ、いいだろ? 頼むよ」
 すると矢田は、少し考えてからこう言った。
「もしかして、俺のことが好きなのか?」
 んなワケねーだろ!!
「ええーっ、ツヨシ、ホモだったの?!」
 隣でマドカが素っとん狂な声を上げる。
 だから違うって。俺はマドカの彼氏なんですって。
「いや、そうじゃなくて。自分の彼女が他の男と二人だけで勉強するって聞いたら、やっぱり気になるだろ? マドカを疑うワケじゃないんだけど、やっぱり、な?」
 おまえも男なら分かるだろう、と、俺が目で訴えると、矢田は無表情で言った。
「いや、どう考えても疑っている」
「ツヨシ最低。もう、大嫌い!」
 怒った顔で、マドカが俺をにらみつける。
 ああ、怒った顔もかわいいマドカ。
 しかし、今はそんなことを言っている場合ではない。
「違うって。疑ってなんかいないよ。そんなことより、な、いいだろう? 俺も一緒にいさせてくれよ。邪魔はしないから」
「でもなぁ、バカといるとバカがうつるって言うし………」
「えー? やだぁ、バカってうつるの? しっしっ、ツヨシあっち行って!」
 俺はハエか?   矢田のヤローにも腹が立つが、マドカ、おまえは一体なんなんだ?
 俺のこと、本当に好きなのか?
 だいたい俺、おまえより成績いいし。
 落ち込みそうになった俺は、ふとあることに気がついて、二人の顔を交互に見ながら言った。
「どうして二人は一緒に勉強することにしたんだ?」
 学年一頭のいい矢田と、学年で5本の指に入る頭の悪いマドカ。二人の間にはなんの接点もないし、これまで仲良くしているのを見た覚えもない。
「あたしが矢田くんに頼んだの。勉強教えてくれって」
 俺の質問にマドカが答えてくれた。
「なんで矢田に?」
「俺がカッコイイからだろう」
 しれっと答える矢田。おまえに訊いてねーよ、このモヒカン野郎。
「なあ、マドカ、なんで?」
「だって矢田くん頭いいし。それにいい人そうだったから」
 マドカ、おまえの目はふし穴か?
 矢田はクラス一の嫌われ者だぞ。それに、コイツの髪型を見て、少しは警戒心というものが沸かないのか。
「でも、なんで急に? 今まで勉強なんてあんまり、っていうか、全然興味なかっただろ?」
 俺がそう訊くと、マドカがちょっと頬を染めた。
「えっとぉ………それは……」
 恥ずかしそうにモジモジする。そして、チラリと意味深に矢田を見た。
「いや〜ん、なんかテレくさ〜い」
「言ってやれ、マドカ。そこのアホタレに」
 あざけるような目で俺を見る矢田。
 え? おい、ウソだろう? もしかしてマドカ、俺を捨てる気なのか? このモヒカン野郎と新しい恋を始める気か?!
 つーか矢田、なんでマドカ呼び捨てなんだよ。
 え、ってことはやっぱり………?
 全身から血の気を引かせて青ざめる俺に、矢田が追い討ちをかけるように言う。
「ブザマだな、ツヨシ」
 なんで俺まで呼び捨てにする?!
 ガックリと肩を落とす俺に、マドカが言った。
「実はね、ツヨシがあんまりバカだから」
 だから俺を捨てるのか?! つーか、俺そんなにバカじゃないし。
「だからね、矢田くんに勉強教えてもらって、あたしがツヨシに勉強教えてあげようと思ったの」
 俺は顔を上げてマドカを見た。そこには天使のように優しく微笑むマドカの笑顔が見える。
「内緒でやって、ツヨシのこと驚かせようと思ってたの」
「頭の悪い彼氏持つと苦労するな、マドカ」
 俺を愚弄する矢田の言葉も、今の俺には入ってこない。でも、呼び捨てはやめろ。
 ああ、やっぱりマドカは最高だ。最高の彼女だ。少しでもおまえを疑った俺を、どうか許してくれ!
「マドカ……俺、俺嬉しいよ。マドカーっ!! グフッ」
 感極まって抱きつこうとした俺の腹に、マドカのアッパーが炸裂した。
「バカがうつる、近寄らないでツヨシ」
 眉をひそめてそう言うマドカ。
 俺は片膝を床につき、殴られた腹をおさえながら、そんなマドカを見た。それでもやはり、俺にはマドカが女神に見える。
 俺のこと、いくらでもバカだと思ってていいぞ、マドカ。
 最高の彼女だ、俺はそう思った。

 その後しばらく「バカがうつる、バカがうつる」と言ってマドカが俺に近寄ってくれなかったが、まあ、それももう終わったことだ。
 もうすぐ、楽しい夏休みが始まる。





     つづく


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