「俺たち、付き合ってるんだよな?」
真剣な顔で訊く俺に、マドカは呆けた視線を向けた。
「あー?」
その態度にカチンときながらも、俺は辛抱強く、もう一度、ゆっくりと訊いた。
「俺たち、付き合って、いるんだよな?」
「まあ、一応ね」
どうでもいいや、って顔でマドカは答える。
「一応ってなんだよ、一応って?!」
俺は絶叫した。
「俺たち、付き合って三ヶ月だぞ? それなのに、一応ってなんだよ?! しかも、そんな彼氏である俺の目の前で、言うにことかいて、恋がしたいなぁ、ってどういうことだよ!」
それはついさっきのこと。
昼飯を学食で食って教室に戻って来た俺は、自分の席にボーッとした顔で座り、頬杖をつく眠そうな顔のマドカに気付いた。
マドカは俺の彼女だ。ちょっと変わっているところもあるが、それでも俺には愛しい彼女なのだ。
だから俺は、いそいそとマドカに近寄った。
「どうした、マドカ。腹でも痛いのか?」
そう訊くと、
「んー? 別にぃ。ただ、恋がしたいなぁと思って」
俺の方を見もせずにマドカは言った。
「おい、ちょっと待て」
俺が顔を引きつらせたのも当たり前だ。
「俺という彼氏がいながら、恋がしたいって、どういうことだ?!」
絶叫する俺に、マドカはエヘッとかわいく笑う。
「ごめん、ごめん。違うの、そういうことじゃなくって。ほら、ドラマや映画で見るみたいな、あんな素敵な恋がしたいなって、そう思っただけ。もちろん、相手は優しくてかっこよくって頭もよくて、みたいな」
それは、俺が優しくなくてかっこよくなくて頭もよくないと、そう言いたいのか、マドカ。
傷つきながらも俺は言った。
「ま、まあ、気持ちは分からなくともないよ。確かに、テレビドラマに出てくるカップルってのは、みんな嘘みたいに美男美女ぞろいだもんな」
っていうか、みんな嘘だし。
器の大きいところを見せようと思って俺がそう言うと、マドカは目を輝かせた。
「やっぱりツヨシにも分かる? 素敵だよね、ドラマに出てくる男の人って」
そして、チラリと俺を見ると、マドカは大きく溜息をついた。
その溜息に、また俺は傷つく。
「ま、まあ、いいじゃないか。マドカには俺という素敵な彼氏がいるんだから」
気を取り直してそう言うと、マドカは口を大きく開けて笑った。
「素敵? あはは、ツヨシったら、またそんな冗談言って。ホント、ツヨシったらおもしろいんだから。あはははは」
いや、別に笑うところじゃないんだけど。
俺がまた大きく傷ついたことも知らず、マドカは笑い続ける。あなた、ノドチンコ見えてますよ。
腹を抱えていたマドカが、やっと落ちついて言った。
「あー、おもしろかった。だからツヨシのこと好きなのよ」
大きな目をキラキラさせながら、大好きなマドカに好きとか言われると、傷ついていた俺の心は途端に元気を取り戻す。
「っていうか、ツヨシのいいところって、そこだけだもんね」
にっこりと微笑みながら、マドカがまた毒舌を吐いたけど、俺はもうくじけない。いいんだ、そこだけでも。それでマドカが俺を好きと言ってくれるなら。
こういうのを、惚れた弱みと言うのだろうか?
昼休み終了のチャイムが鳴ったから、俺は自分の席についた。と言っても、マドカの隣の席だけど。
カバンから教科書やノートを出しながら、俺はこっそりとマドカを盗み見た。いつ見ても、やっぱりマドカはかわいい。学校でも、指折りの美少女だ。
こんな彼女を持てるなんて、俺は幸せだ。少しぐらいの毒舌や天然ボケなんて、清算したらおつりがくる。
俺とマドカが付き合い始めたのは、今年、初めて同じクラスになった四月から。一目惚れした俺が告白したのがきっかけだ。
会って三日後、
「好きです。お友達からじゃなくて、今すぐ彼女になって下さい!」
俺がそう言って手を出すと、マドカはにっこり笑ってその手を取った。
「試用期間は三ヶ月。だから仮彼氏ね」
嬉しさのあまり、俺がその場で踊り狂ったのは言うまでもない。高校二年生にして、初めて俺に彼女ができた。しかも、とびっきりの美少女だ。
そして今、試用期間も無事終わり、俺は正式な彼氏となった。いや、多分なったんだと思う。
試用期間を過ぎて十日ほど経つが、その結果がどうだったのかを、俺は今まで怖くて訊けずにいた。もしかすると、いや、間違いなく、マドカはそのことを忘れているんだと思う。だったら、わざわざ話を蒸し返すこともなく、俺は黙っていた。
そう、だからさっきマドカの言った「まあ、一応ね」というセリフは、俺にとって、とても大きな意味を持っていたのだ。
正式に彼氏として認めてもらえた、と、俺はそう受け取った。
ウチに帰ったら、オフクロにお赤飯を炊いてもらわねば。
授業中、そんなことをニヤけながら考えていた俺は、急にマドカからペンシルでつつかれて、ハッとわれに返った。
「なに?」
小声できくと、マドカが口元に手をあてて小さく言った。
「教科書読み、当てられた」
それを聞いて、俺は慌てて立ち上がった。どこから読めばいいのか分からない国語の教科書を、必死になってペラペラめくる。
そしたらなぜか、教室のみんながクスクス笑った。その笑いの意味が、俺には分からない。
ふと教壇に立つ国語教師を見ると、呆れた顔して俺を見ていた。
「遠藤、おまえ桜井の代わりに教科書読むつもりか?」
遠藤は俺、桜井はマドカ。
え? 代わりって???
ワケが分からず俺がそのまま突っ立っていると、隣のマドカが立ち上がった。そして、なにごともなかったかのように教科書を読み出す。
って、オイ、当てられたのおまえかよ?!
俺は顔を真っ赤にして席に座った。
しばらくすると、教科書を読み終わったマドカが腰を下ろした。そして、俺を見てにっこり笑って言う。
「ツヨシったらまぬけね。頭大丈夫?」
おまえのせいだろーがっ!
と思っても、口に出しては言えない俺である。
こんな目に合わされても、やっぱり俺はマドカが好きなのだ。
ああ、恋っておそろしい………。
つづく
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