温かい浸透圧


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 高校生になったら、絶対に天文部に入ろう。
 藤崎知子はずっとそう思っていた。
 夜空に輝く星は美しい。見ていて飽きることがない。
 真冬の寒い夜のバルコニー、風呂あがりに時間が経つのも忘れて星に見入ってしまい、風邪をひいてしまったことなど珍しくもない。
 それくらい、知子は星が好きだった。キラキラ輝く星を見ていると、なんだか自分の目までキラキラ輝くような気がしてくる。
 中学校に天文部はなかった。だから高校に入ったら、絶対に天文部に入部しようと知子は固く決心していたのだ。
 市役所によって月に一度発行される市政新聞。その中の「わが市で起こったチョットいい話」の蘭に、以前こんな記事が書かれていたことがある。
『県立高梨高校での心温まる話。過去二十年に及ぶ天文部OB・OG一同から、高性能天体望遠鏡(約百万円)が現天文部に寄贈されたそうである。これは県内にある高校の天文部にある望遠鏡の中では最も高価であり、また高性能な物であると言える。現在、高梨高校天文学部の部員数は十人。人数はそう多くないが、しかし活動は盛んで、毎月一度は校内に泊まりこんでの天体観測を行っているのだそうだ。望遠鏡を送られた同部員たちは涙ながらに喜んで、過去の先輩たちに感謝の意を表したそうである』
 これを知子が読んだのは中学二年の時。
 絶対に高梨高校に入学しようと決めた。
 それに、そもそも母親に言われていたのである。
「うちはそう余裕のある家じゃないから、高校は絶対に公立に受かってよね。それができなかったら、中卒で働いてもらうわよ」
 母親はにっこり笑顔だったけど、多分、五割くらいは本気だったように知子は思う。顔は笑っていても、目は笑っていなかった。
 そんなワケで、ちょうどいいじゃないか、県立高梨高校。
 県内でもトップクラスの進学校? 今の知子の成績だと、逆立ちしたって合格できない?
 知ったことか、そんなこと。
 たかが成績くらいのことで、あの高性能天体望遠鏡をあきらめるわけにはいかないのだ!
 そう、だから知子はがんばることに決めた。なにがなんでも高梨高校に合格するために。高性能天体望遠鏡のある天文部に入部するために。
「お母さん、塾に行かせてよ。いいじゃない、先行投資だと思えば。公立落ちて私立に入学することを考えたら安いものでしょう?」
 それまでは、勉強するくらいなら星座の一つでも覚えた方がマシ、といった感じだった知子である。娘のこのやる気に満ちた言葉を聞いて、母親は大喜びで首を縦に振ってくれたのだった。
 そして、一年半後。
 苦労が報われ、晴れて高梨高校の生徒になれた知子は、念願叶って待望の天文部に入部届けを提出することができたのである。
 この喜びを、どうやって表現したらいいものか!
 そんな風に、喜びの絶頂にあるはずの知子ではあるが、なぜかここのところ不機嫌だった。
 授業中はもちろんのこと、今みたいな授業と授業の間の楽しい休み時間でさえ、ムッとした顔をしていることが多い。
 自分の席に座って頬杖をつき、天井をにらみつけている知子に、前の席に座っている浜田美香が声をかけてきた。
「どうしたよの、知子?」
 出席番号が知子の前、お互い妙に気が合い、わずか二週間で親友とも言える間柄になった美香は、パッチリふたえ二重でフワフワの天然パーマ、背は低いがそこがまたカワイイという、かなりの美少女である。
 不機嫌そうに口をへの字に曲げている知子を、美香は前の席に座ったまま、体を後ろにねじ曲げてのぞきこんだ。
「そんな機嫌の悪い顔しちゃって。あ、もしかして便秘?」
「違うわよ」
 相変わらずのぶっちょうづら仏頂面で知子は答える。
「快便快食、あたしは健康そのものよ」
「それじゃ、どうしたって言うのよ? そんな顔しちゃってさ、かわいい顔が台無しじゃない」
 不思議そうにそう言う美香に、知子は唇を突き出してみせた。
「美香みたいな正真正銘の美少女に、カワイイなんて言われたくないわね。嫌味言われたような気分になっちゃう」
「あら、確かにあたしは美少女だけど、知子だって捨てたもんじゃないわよ。、かなりいい線いってると思うけど?」
 美香の言う通り、知子もなかなかカワイイ顔をしているのである。
 色白で線が細く、典型的な美少女である美香に対し、知子のかわいさは健康的なものである。見るからに元気がよく活発そうで、その大きなどんぐりまなこ眼は少し強気にキラキラ輝いている。
「なに言ってんのよ。あたしは普通よ、普通」
 顔のことを褒められて、知子は少しテレ恥ずかしそうに頬を染めた。それを見て、美香が楽しそうにキャッと笑う。
「やだー、知子ってばすっごく謙虚。あたし、知子のそういうところ大好き。でも、あまり言いすぎると嫌味っぽくなるから気をつけてね」
「そういうあんたは、自分のこと美少女って言いすぎよ。でも、あたしも美香の、そういうハッキリスッパリ物を言う性格、実は嫌いじゃないんだけどね」
 と言うよりも、むしろ好きだ、と知子は思う。
 そう、いかにもおとなしく控え目で、男の子に話しかけられでもしようものなら、真っ赤になって卒倒しそうな容姿の美香は、意外と竹を割ったような性格をしているのだ。男の子とも平気で話すし、言いたいことはズバリと言う。
 美香に比べれば、まだ知子の方が女の子らしい性格をしていると言えるかもしれない。
 そうは言っても、知子だって人見知りなんてするたち性質ではないし、負けん気だって、どちらかと言えば強い方である。
 つまり、二人はとてもよく似た性格をしているというワケだ。だからこそ気が合い、短い期間で親友にもなれたのだろう。
「それはさておき、どうしたって言うのよ? なにかあった?」
「う…ん、実は天文部のこと」
 知子は大きく息を吐いた。
「天文部?! えー、どうしたの? なにか事件でもあったの?!」
 心配そうに……ではなく、いかにも興味津々、ワクワクしたような顔で美香が知子につめよった。
 知子が片方の眉だけつり上げる。
「なによ、美香ったら。友達だったら心配そうなフリだけでもしてみせなさいよ」
「あはは、ごめんごめん。で、天文部でなにがあったの? 早く教えてよ」
 まったく反省の色を見せない美香の姿に、あーあ、とあきらめたように知子は溜息をついた。そして、言う。
「実は一人、困った先輩がいるのよね」
「困った先輩? それって女の先輩?」
「ううん、男」
 言いながら、知子は苦虫を噛み潰したような渋い顔をした。それを見た美香が、そのかわいい顔をムギュッとしかめる。
「うわー、ヤダヤダ。その先輩、思い出しただけでそんな顔したくなるような不細工野郎なワケ?」
 少し考えてから知子は首を振った。
「ううん。顔は整ってる方だと思う。黒縁の眼鏡かけてたりなんかして、頭よさそうな感じだし」
「あ、分かった。じゃあそいつ、背がすっごく低いんでしょう? 顔がいいのに背が低い男って、なんだかかえって気持ち悪いもんね」
 それにも知子は首を振る。
「背も高いよ」
「じゃ、デブ……」
「ってこともない。細身ですらっとしてる」
「……………」
 美香は知子をにらみつけた。
「その先輩のどこが困ったヤツだって言うのよ?! すごくいい人じゃないのーっ!」
 怒ったようにそう叫んだ美香を、知子は白い目で見据えた。
「あんたの人間を見る判断基準は見た目だけ?! 違うわよ、あたしが言ってるのは性格のこと。もう、性格がすっごくか変わってるの。変なの」
 キョトンとした顔を美香はする。
「なんだ、性格か。いいじゃない、少しくらい変でも。それくらいガマンしなさいよ。だって、顔がいいんでしょう?」
 知子はガックリと肩を落とした。
「あ、あのね、美香。人それぞれだと思うから、別にあんたの価値観にケチをつけるつもりはないんだけど、でも、あたしはそうじゃないの。顔よりも、性格重視するタイプなの。それにね、今あたしは好きな人とか彼氏について話しているわけじゃないのよ? 部活の先輩の話をしているの。だから、顔うんぬんは関係ないでしょう?」
「部活の先輩でも、顔は悪いよりいい方がいいと思うけど?」
 平然と美香は言ってのける。
 知子は大きな溜息をついた。
 とにかく、美香にとって容姿とは、どんな時でも最も優先されるべきことがら事柄であるらしい。
 少し呆れたような顔をしている知子に、美香は目を細めてにやりと笑いながら言った。
「なによー、知子ったら。そんな顔してあたしを見てるけど、知子だってメンクイじゃない。彼氏、なかなかの二枚目だもんねー。人のこと言えないんじゃなーい?」
「メンクイ? あたしが?!」
 自分を指さし、知子はもともと大きめの目を、さらに大きく目を見開いた。
「な…ちょっと、違うわよ。あたしはメンクイなんかじゃないって!」
「よく言うわよ。ホラ、前に見せてくれた彼氏の写真、ちょっと見せてよ。手帳にはさんでるやつ。ねえ、早くぅ」
 美香に両手で催促され、渋々ながら知子はカバンから手帳を取り出した。そして、開いた最初のページ、カバーにはさんである写真を手に取り、複雑な顔をして見る。
 そこには、今より少し幼い知子とその彼氏、渡辺達也の姿がおさめられていた。
 後ろから達也にギュッと首元を抱きしめられ、テレくさそうに頬を染めながらも、満面の笑顔を見せる知子の姿がそこにある。いかにもヤンチャそうな達也も、右手でピースなんてしながら、カメラ目線で無邪気にニッカリ笑っている。
 見ていて胸がジーンとするくらい、楽しくて幸せそうな知子と達也。中学二年になってすぐ、二人が付き合い始めたことを記念に撮った写真だった。同じクラスの友達が、教室で撮ってくれたのである。
 その時のことを思い出し、つい知子は物思いににふけってしまう。そんな知子の手から、美香がスッと写真を取り上げた。そして、しげしげとながめる。
「これって二年前の写真でしょう?」
「う…うん」
「二年前でこれだけカッコイイんだもん。今なんて、とんでもなく素敵になってるんでしょうねぇ。知子はいいなぁ、男前の彼氏がいて。ねえねえ、今度ぜひ会わせてよ。あたしに目の保養をさせてー!」
 自他共に認める美少女で、いつも目をハートにした男子生徒たちから熱い視線を送られている割に、実は特定の彼氏のいない美香である。
「ま、その内ね」
 美香に返してもらった記念の写真を、また手帳にはさみ、それをカバンに戻しながら知子は苦い思いを噛みしめていた。
 実は最近、あまり達也と上手くいっていない。
 理由は簡単。高校が別々になってしまったから。
 いや、そうじゃない。高校入学前、受験勉強地獄の頃から、二人の仲は微妙にギクシャクしていたのだ。それが更に、高校が離れて会える時間が少なくなったことで、悪化の一途をたどっているように知子は思う。
 そもそも、達也は知子と同じ高校に入学したがっていた。それは知子にしても同じである。二人の成績はだいたい同レベルだったし、なにもなければ、間違いなく同じ高校の生徒になっていただろう。
 でも、知子は高梨高校天文部の存在を知った。どうしても、高性能天体望遠鏡のある高梨高校に行きたくなった。だから、猛烈に勉強し始めた。二人の成績にどんどん差が開いてきた。違う高校に入学した。
 そして、今のような結果におちいってしまったのである。
 最近では、会うのは土日くらい。メールのやり取りする回数も、ラブラブだった頃に比べるとめっきり減った。半分以下と言っていい。
 このままじゃいけない。なんとかしなければ。
 だって、こうなる原因を作ったのは知子の方なのだから。
 なにか二人の関係が上手くいくナイスな方法を考えなければ、と思っているのに、それを邪魔する存在があったりなんかする。
 そう、その憎き存在こそ、天文部の今期部長、二年の北見伸なのである。
 入学式の一週間後、知子は歓喜に胸を震わせながら天文部に単身出向いた。そして、部長である北見に入部届けを差し出した。
「ふうーん、入部希望者か」
「はい、よろしくお願いします!」
 何事も最初が肝心だ、なんてことを思いながら、知子は極上の笑顔で頭を下げる。
 それに対して、北見も爽やかな笑顔でニコリと言った。
「こちらこそよろしく」
 なかなかよさそうな人だ、と知子は思った。それに、かなりの男前だ。ついでに、北見の隣に立つ副部長の浅野小百合も、清楚な感じのする美人である。長いストレートの髪がさらりと揺れる様が、なんとも言えず美しい。
 この二人、きっと付き合ってるに違いない。
 下世話ながらそんなことを思ってしまう。
 顔を上げた知子は、今度はさりげなく部室内を見回した。
 二十畳ほどの広さの長方形をしたその部室は、さすがは二十年以上の歴史を誇るだけあって、とても古く薄汚れている。部屋の両側面には、天井まで届く棚が設置され、見ただけで手製と分かるプラネタリウムや、知子にはよく分からない機材などが並べられていた。天文関係の雑誌もたくさん揃っている。
 そして、その片隅に、知子の求めるそれがあった。超高性能の天体望遠鏡である。
 それを見た途端、無意識に知子の顔が喜びに輝く。
「えっ…と、知ちゃん、でいいのかな?」
 入部届けに書かれてある名前を確認しながら、北見は知子に笑顔で声をかけた。
「ウチの部はフレンドリーをモットーにしているから、初対面で悪いけど、そう呼ばせてもらうね」
 望遠鏡に目が釘付けになっていた知子は、ハッとしたように北見に視線を戻した。そして、「気をつけ」の姿勢をとる。
「は、はいっ! 好きなように呼んで下さい」
「うん。それでは改めて知ちゃん、天文部への入部動機を聞かせてもらってもいかい?」
 そんなことを聞かれるとは思ってなかった知子は、ちょっと緊張しながら答えた。
「簡単に言うと、星を見るのが好きだからです。専門的な知識とかは全然ないんですけど、でも、天文部に入部すれば、そういった知識も得られるかと思って、それで……」
「ふーん、そっかぁ。なかなか素敵な動機だね」
 部室の一番奥、窓のすぐ側にある部長席に座る北見は、人のよさそうな笑顔でそう言った。
 かと思うと、いかにも演技がかった悲しそうな顔して、溜息交じりにこんなことを言う。
「でも残念ながら、知ちゃんの入部を認めるわけにはいかないんだ」
 驚いたのは知子である。
「ど、どうしてですか?!」
 だ、だって、天文部に入りたくて受験勉強をがんばったのに。色々なことを犠牲にしてまで、努力を重ねてきたのに。
 それなのに入部できないなんて、あまりにひどすぎるっ!
 ショックを隠しきれないでいる知子に、小百合が優しく声をかけた。
「ああ、勘違いしないでね? 入部を認めないとは言っても、それはテストに合格できなかった場合のことなのよ」
「テスト? 入部テストがあるんですか?」
「ええ、そうなの。去年まではなかったんだけど、今年はちょっと、ね」
「ど、どうしてですか?! どうして今年に限って!」
 星が好きとは言え、これまではただ夜空を眺めることで満足していた知子である。テストされて、それに合格する自信なんてまったくない。あるはずがない。
 知子からの質問に、ちょっと複雑そうな顔をしながら小百合は答えた。
「実はね、今年の入部希望者の数が、もう考えられないくらい多いのよ。テストして、ふるいにかけなきゃならないくらい」
「で、でも、入部希望者が多いっていうのは喜ばしいことじゃないんですか?」
「その通り。でも、入部の動機が問題なのよね」
 シミ一つない白い頬にしなやかな手を添え、溜息交じりに小百合は言った。北見も隣でコクコクとうなずいている。
 知子は首をかしげた。
「動機って?」
 部長席に座っていた北見が、ガタンと立ち上がった。そして、知子にグイッと自分の顔を近づける。
「見て分からない?」
 言われていることの意味さえ分からず、知子は首をかしげた。
「な、なにがですか?」
「ほら、俺ってかっこいいだろ?」
 親指で自分の顔を指し、北見は胸を張る。
「昨日の放課後に体育館でやった部活動紹介。あの時に天文部紹介と部員勧誘のひと言を言うため、俺と小百合が壇上に立ったの覚えてる?」
「はい、まあ一応、天文部に入部希望ですので、しっかり見てました」
「その時に、俺らの美貌に悩殺された一年生が、目をハートにして入部届けを持ってくるんだよ。まあ、気持ちは分かるけど、正直言うと困るんだよね、そういうの」
 そう言う北見の顔は、困っているどころか嬉しそうに知子には見える。
 なんと言ったらいいか分からずに知子が愛想笑いをしていると、それを苦笑しながら見ていた小百合が言った。
「不純な動機で入部する子たちって、どうせすぐに辞めちゃうのよ。そういう子たちに、時間を費やして教育する余裕がウチにはないの。もともと、人数だってそう多くないんだし。苦労して色々教えてあげて、それですぐに辞められちゃったら割りに合わないでしょう? っていうか、腹立つし」
 見た目が清楚な割に、小百合は意外とはっきり物を言うタイプらしい。ちょっと美香に似ているかもしれない。
 そんなことを思いながらも、知子は必死になって言った。
「あたしは違います。あたしはそんな不純な動機なんかで入部したいんじゃありません!」
「みんなそう言うんだよ」
 そう言った北見を、ムッとしたように知子はにらんだ。自分の星に対する情熱を、疑われたことにカチンとくる。
「嘘じゃありません。あたしは本当に星が好きなんです!」
「それをはっきりと見極めるためのテストなんだ。というわけで、はい、これ」
 いきなりドサッとファインダーを手渡されて、知子は面食らった。
「なんですか、これ」
「これに挟まっているプリント、全部で約百枚ほどあるんだけど、これがテスト範囲」
「えーっ、こ、これ全部ですか?!」
「そ、これ全部」
 なんてことないように北見は言うが、百枚というとかなりの量である。
「で、でも、こんなにたくさん………」
「たくさんって言っても、いっぺんにテストするわけじゃないの。一日に四枚ずつ。そのプリントの重要なところだけを空白にして、あなう穴埋め問題にするのよ。だから、丸暗記すればいいだけ」
 さも簡単そうにそう言う小百合も、にこやかな笑顔である。
「九十点以下が不合格。落第点をとった時点で、預かっている入部届けは破かせてもらうことになる」
「大丈夫よ。入試でウチの学校に合格したんだもの。これくらいチョロイものよ。がんばってね、応援してるから」
 小百合は軽くそんなことを言うが、知子にしてみれば、これはとんでもないことだった。
 だって、もし不合格してしまったら、どうして無理してまで高梨高校に入学したのか分からなくなる。それに、毎回九十点以上なんて、そんなのハードルが高すぎる。
 ファインダーを握りしめたまま、なか半ば茫然と顔を青ざめさせている知子の肩を、元気づけるようにして北見は叩いた。
「知ちゃんは絶対に合格するよ。俺が保障する」
 泣きそうになりながら、知子は恨めしそうに北見を見た。
「どうしてそんなことが言えるんですか?! 好きなことだから一生懸命にやってみますけど、でも、どこで凡ミスするか分からないし。それで天文部に入部できないなんてことになったら、あたし……!」
「それでも大丈夫なんだよ」
 北見が楽しそうに言った。
「だって俺、知ちゃんのこと気に入ったもん。かわいいし元気だし、物怖じせずにハキハキしゃべるところなんて、バッチリ俺好み。テスト中、知ちゃんが集中してがんばれるように、俺がしっかり念力送ってあげるからね」
「ね、念力ですか……」
 呆れたような顔をする知子に、小百合が肩をすくめてみせた。
「北見くんの言うことはあまり気にしないで。ちょっと頭がおかしい時があるから」
「おいおい、小百合、知ちゃんに変なことを吹き込むなよ。本気にするだろー?」
「本気にしていいのよ、知ちゃん。北見くんは本当に変なところあるんだから。それはそうと、がんばってね、試験」
「うんうん。本来、かわいい女の子の入部は大歓迎なんだから。なにがなんでも合格してくれよな」
 きれいどころ二人から、これ以上ないくらいの笑顔で励まされ、知子は顔をかす微かにひきつらせながらも返事した。
「は、はい……がんばります」

 そんなワケで、入部テストに向けた、知子の勉強の日々が始まったのである。





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