準備を整えると、三人はすぐに買い物に出かけた。
よく行く最寄のスーパーで食材を買い込み、帰りにはケーキ屋も立ち寄った。
「プレゼントがなにもないんだもん。せめてケーキだけはあたしに買わせて」
そう里奈が言い張ったが、亨と水樹は笑いながら「子供がそんな気を使うもんじゃない」と言って首を横に振った。
「料理作るのがんばってくれればいいよ。水樹は戦力外だからな。里奈ちゃんに期待してんぞ」
それを聞いて渋い顔をした水樹の横で、驚いた里奈が目を大きく見開いた。
「戦力外? あ、もしかして、水樹先生ってお料理苦手なの? うわー、意外〜。先生にもできないことがあるんだぁ。へ〜」
「料理どころか、家事全般すべてダメなんだぜ。箱入り娘のお嬢様育ちだからな、水樹は。一緒に暮らす俺の苦労が分かるだろ?」
「ふふ。でも亨さんのことだから、先生のそういうところもカワイイとか思ってるんでしょー?」
「ち、ちょっと、なに言ってるのよ、里奈ちゃん!」
焦った水樹が軽く里奈をにらんだところで、すかさず亨が笑顔で言った。
「またまた大当たり。俺って水樹が大好きだから、どんなところもすべてが愛しいんだ」
「亨!」
水樹は怒って亨をにらみつけた。しかし、そんな水樹を無視して亨と里奈は会話を続けている。
「いいなー。亨さんみたいな素敵な彼氏がいて、水樹先生は幸せね」
「それはちょっと違う。幸せなのは俺の方。こんな美人でかわいい彼女がいるんだもんな。俺は世界一の幸せ者だぜ」
「亨さんたらノロケすぎー。でも、気持ちは分かる」
「だろ、だろ?」
バカ話を続けている二人を、水樹は奥歯を噛みしめながら赤い顔をしてにらみつけた。
「…なっ、なに言ってるの、あなたたち! もう付き合っていられない! わたしは先に帰らせてもらうわ! フン!」
頭から湯気をたて、スタスタと早足で行ってしまった水樹の後ろ姿を見ながら、亨と里奈はいたずらっぽく笑い合った。
「水樹先生ったらテレちゃって。かわいー」
「そう思うだろ? ホント、水樹ってばカワイイんだよなー」
そしてまた顔を合わせて笑い合うと、二人は慌てて水樹の後をおいかけた。
家に帰り着くと、すぐに料理に取り掛かった。
しかし。
手際よく動き回る亨と里奈の脇で、水樹は憮然とした顔でただただ立ち尽くすばかりである。
「わたしにもなにかやらせてちょうだい」
「あー、じゃあ野菜を洗ってくれるか?」
「野菜ってどの野菜?」
「あるヤツ全部洗ってくれればいいよ。洗い終わったら里奈ちゃんに回して。里奈ちゃん、野菜切ってくれるか」
「はーい」
水樹の洗った野菜を、里奈がリズミカルに包丁で切っていく。水樹が感嘆の目で見ていると、フライパン担当の亨が里奈に笑いかけた。
「上手だなー、里奈ちゃん。料理習ってんのか?」
褒められて一瞬テレ臭そうに笑った里奈が、すぐさま苦い顔をして言った。
「うちのお父様って、女は料理が上手くなければ価値がない、って本気で思っているような時代錯誤人間なの。だからあたし、小学生くらいの頃からハウスキーパーさんのお手伝いしながら料理を覚えさせられてて。渋々やっているうちに、そこそこなんでもできるようになっちゃった」
「理由はどうあれ、とにかく助かる。そっちが終わったら、今度はナベを見てもらえるか?」
「うん、いいよ。あっ、水樹先生はゆっくりしてて。このお料理は先生の誕生祝いの料理なんだもの、先生が手伝うことないわよ。ねえ、亨さん?」
「そうだな」
亨も笑顔で同意する。
「こっちはもう手が足りそうだし、水樹は居間でのんびり昼寝でもしてくれてていいぞ」
「そんな、悪いわ。わたしもなにか手伝……」
水樹が最後まで言い終わる前に、亨と里奈は料理本を見ながら役割分担を話し合い始めた。そこには、とてもではないが水樹の割り込む余地はない。
釈然としない様子で水樹は二人の姿を眺めていたが、やがて肩をすくめると、居間に行ってソファーに腰を下ろした。そして、暇つぶしに新聞なんぞを読んでみたりする。
なんとなく、のけ者にされたようで気分が悪い。
少し拗ねていたものの、そんな様子はオクビにも出さずに水樹は新聞に目を通した。台所からは、亨と里奈の楽しそうな声が聞こえてくる。
「ふん、どうせわたしは料理が苦手ですよ。いいのよ、別に。料理ができなくったって死ぬわけじゃないのだから」
凛とした表情で自分自身に言い聞かせるように水樹がそう呟いた時、玄関のチャイムが鳴った。
「誰かしら?」
立ち上がり、玄関へと向かおうとした水樹を、エプロン姿の亨が右腕で制した。
「俺が出る。どうせ新聞の勧誘かなにかだろう? 追っ払ってやる」
両手の水分をエプロンで拭きながら、ドアを開けずに亨が声を上げる。
「どちら様? 新聞の勧誘なら間に合ってるよ。その他、すべての押し売りはお断り!」
「あ、室井か? 俺っ、俺だよ!」
「今さらオレオレ詐欺に引っかかるほど、俺はバカじゃねーよ。とっとと帰れ!」
亨は冷たく言い放ったが、しかし玄関の向こうにいる人物も引き下がらない。
「バカ! なにがオレオレ詐欺だよ。俺だよ、吉田だよ! おまえと同じ大学、同じ学部、この前おまえを三日間家に泊めてやった、あの吉田だよ!」
「よ、吉田ぁ?」
慌てて亨は玄関のドアを開けた。
亨の姿を見た途端、吉田が情けない声をあげた。
「む、室井〜っ! よかった、おまえがいてくれてっ」
そこに亨の見たものは。
両手にたくさんの荷物を持ち、背中にも特大のリュックをかかえた、なんとも疲れ果てた様子の吉田の姿だった。なぜか顔も服も、持っている荷物さえも、まるで炭で煤けたように黒く汚れている。
「どっ、どうしたんだ! なにがあった?!」
驚いた亨の上げた大声に、なんだなんだと廊下の向こうから、水樹と里奈もひょっこり顔をのぞかせる。
三人から見つめられる中、吉田はションボリと肩を丸め、泣きそうな声で言ったのである。
「俺のアパート、家事になって焼けちまった」
「えぇっ?!」
「だから頼む。しばらくの間ここにおいてくれないか?」
両手を合わせて吉田が頭を下げた。
「なっ、いいだろ?」
「え? えぇ―――っっ??!!」
それには亨のみならず、里奈と、そして水樹さえもが思わず大きく声を上げた。
吉田の住んでいたのは、一人暮らしの大学生をターゲットとした、1DKのこじんまりしたアパートである。そこには亨も遊びに行ったことがあるし、それどころか、さっき吉田が言っていたように泊り込みで世話になったこともある。
「火事で燃えたって? マジかよ?」
亨からの問いかけに、ソファーにちょこんと腰掛けた吉田は、力なくうなずいた。
「聞くところによると、二軒隣に住んでいた野郎がタバコの不始末をやらかしたらしいんだ。おまえが行かないっつーから、俺も今日の親睦会には出なかったんだけど…ホント、助かったよ。家にいなかったら、きっと俺の物全部焼け焦げになってただろうし。早いうちに変な臭いと煙に気がついたから、慌てて持てる限りの荷物を外に運び出したんだ」
見るからに気落ちしている吉田の姿。
亨と水樹、それに里奈は、なんと言って声をかけたらいいか分からず、ただただ同情の目で吉田を見るばかりである。
やがて大きなため息を一つつくと、うつむいていた吉田が顔を上げた。そして、すがるような目で亨を見る。
「なあ、頼むよ。なるべく早く次のアパート探す。だから、それまでの間だけでも、ここに住まわせてもらえないか?! この通り!」
さすがの亨も、これには困った顔をした。
「そうは言ってもなぁ、ここは俺だけが住んでいるワケじゃないんだし……」
水樹は絶対に嫌がるはずだ、と亨は思った。なにせ、自分と住むことでさえ、あれほど渋ったのだから。赤の他人、しかも男である吉田がこの家に入りこんでくることを、了承してくれるはずがない。精神的にガマンできるはずがない。
助けてあげたいという気持ちは、もちろんある。しかし、吉田には他にいくらだって友達がいるのだ。だったら、そいつらの世話になって欲しいというのか、実のところ亨の本音であった。自分も一緒とは言え、他の男と水樹を一つ屋根の下で暮らさせるなど言語道断! という思いもある。
とまあ、亨が心の中でそんなことを考えていると、隣に立つ水樹が言った。
「あら、わたしはかまわないわよ」
それを聞いた亨が、えぇっ、と驚愕のあまり振りかぶって水樹を見た。
「えっ、だって……水樹…」
「亨の大切なお友達なのでしょう? だったら、こういう時こそ助け合わなくちゃ。それに、火事が起きたのは吉田さんのせいじゃないのだし、一番の被害者は吉田さんなのよ? 友達として、できる限りのことをしてあげるべきだわ」
感動のあまり潤んだ瞳で吉田が水樹を見つめる。
「…あ、ありがとう、水樹ちゃん。君は見た目が美しいだけでなく、心までも美しい人だ。本当にありがとう!!」
水樹は首を振ると、慈愛に満ちた目で吉田を見つめ返した。
「困った時はお互い様だわ。人として当然のことよ」
いつもの彼女とはかけ離れた、優しくて思いやりのある、人情味あふれたこの温かい微笑みはなんなのか。
実は水樹、吉田の突然の訪問を大歓迎していたのである。そりゃもちろん、よく知りもしない男と共に暮らすのは、本音で言えば絶対嫌だ。普段の水樹であったらな、一も二もなく無下に断っていたことだろう。
しかし、今はちょっと状況が違う。
だって。
アレのことがあるのだから。
吉田がいる間、いくらなんでも亨だって手は出してこないだろう。出したくても出せないだろう。これで当分、アレから逃れることができる。しかも、その理由は亨側のもので、水樹にはまったく非がないのである。
こんな好都合なことってあるだろうか。
「吉田さん、そんなに慌てなくて、ゆっくりアパート探してくれてかまわないのよ。これからまだ四年近く住む場所になるわけだし、慌てて変な所に引っ越すと、後で後悔することになるわ。ちょうど夏休みだし、その間にのんびり時間をかけて探すといいわ」
言いながらも、ついつい顔から笑みがこぼれてしまう水樹である。しかし、胡散臭そうな目で亨が自分を見ていることに気づくと、慌てて顔の筋肉を引き締めた。
「亨、吉田さんにはあなたの部屋で一緒に寝てもらうことになるけれど、それはかまわないわよね?」
「あ? ああ、そりゃもちろん……」
なんとなく納得できない顔の亨ではあるが、水樹はそんなもの気にしない。
「だったら、荷物の整理を早くした方がいいわ。全部入りきらないようなら、居間に置く場所を作らなくちゃね。ああ、でもその前に、シャワーを浴びてもらった方がいいかしら。全身煤だらけだもの。それじゃ吉田さんも気持ち悪いだろうし、部屋も汚れてしまうわ」
とまあそんな具合に水樹がやたら張り切ってテキパキ指示を出し始めたところで、それまで成り行きを黙って見ていた里奈が、急に声を上げた。
「あたしも! あたしもこの家に住みたい!」
これには亨と水樹の双方が、呆気にとられた顔をした。
「な、なに言ってるのよ、里奈ちゃん。あなたには立派な家があるじゃない」
「だって、あの家嫌いなんだもん。それにあたし、例のオーディションの一次審査の書類選考、無事に合格したの。次の二次審査は歌唱力テストがあるんだけど、家にいたら練習するなんでできないし。ここだったら、やることちゃんとやりさえすれば、練習に行かせてくれるでしょう? ねえ、お願い。あたしもここにいさせて!」
突然の、しかも、かなり必死な様子の里奈からの申し出に、亨と水樹は困ったように顔を見合わせる。
「そうは言ってもさ、里奈ちゃんのお袋さんがそんなこと許してくれっか?」
亨からの質問に、里奈は自信を持って答えた。
「それは大丈夫! 水樹先生はうちのお母様に信用あるもん。それに、二人が同棲してるってこと、お母様は知らないし。だから、絶対に大丈夫だから。ね、いいでしょう? なんでもお手伝いする。お掃除もお洗濯もお料理も、全部あたしがやったっていい。あたし、ちゃんと練習してオーディションに臨みたいの!」
先ほどの吉田よろしく、里奈も両手を合わせて頭を下げた。
そんな里奈を、しばらく無言で見詰めていた水樹が、チラリと亨に視線を投げかけた。
吉田の場合は亨側の問題だったから、水樹がOKの返事をした。里奈の場合は水樹側の問題だから、決定を下すのは亨の役目である。
亨は腕を組み、なんとも複雑な顔をしていたが、やがて大きなため息を一つつくと、やれやれ、といった表情で里奈に言った。
「まあ、一人も二人も変わんねーか」
「じゃあ、いいの?!」
顔を輝かせる里奈の頭に、亨はポンと手を置く。
「ただし、ご両親の承諾が得られたらの話だぞ? じゃないと、俺ら誘拐犯になっちまうからな」
「さっきも言ったけど、それは水樹先生が説得してくれさえすれば、絶対に大丈夫。あたし、自信があるんだ!」
そんなワケで、水樹はさっそく柏木邸に電話してみたのだが、結果は里奈の言うとおりであった。
『それはつまり、受験勉強の強化合宿をする、ということですの、水樹先生?』
電話の向こう、水樹からの説明を聞いて、少し考えるようにそう言った柏木夫人に、水樹は落ち着いて答えた。
「ええ、そういうことです。受験まで間もないですし、集中して勉強させた方がいいと思うんです。もちろん、毎日電話連絡はさせますし、ご心配なら二日に一度は家に顔を見せに帰らせてもいいと思ってます。わたしが責任を持ってお預かりします。いかがでしょう?」
『それは、こちらとしては有難いばかりですが……よろしいんですの? ご迷惑ではございませんこと? 里奈は…ほら、色々と問題も多い子ですから』
「お気使いなく。それでは、よろしいでしょうか?」
『ええ。主人にはわたくしから話しておきますわ』
「それでは、一度荷物を取りに戻らせますので、詳しい話は里奈ちゃんからお聞き下さい」
『分かりましたわ』
受話器を置いた水樹に、里奈が笑顔で声をかける。
「ね、大丈夫だったでしょう?」
「そうね。思ったよりアッサリ承諾して下さったわ」
「お母様としては、あたしを正当な理由で厄介払いできるってんで、きっと今頃は小躍りしてと思うわよ。……よし、それじゃ、あたしは今すぐ荷物取りに行ってくるね。タクシーで往復するから、そんなに時間はかからないと思う。お料理のお手伝いの方は…」
「気にするな。こいつもいることだし」
亨が親指で吉田を指した。
「里奈ちゃんが戻ってくる頃には、準備も万端に整ってるさ。さ、早く行ってこい。遅いと先に始めちまうぞ」
「うわー、大変! それじゃ、急いで行ってくるから!」
慌てて玄関から飛び出していった里奈を見送りながら、水樹が苦笑する。
「まったく、思いがけないことになったものだわ」
「とかなんとか言いつつ…」
亨が細めた目で水樹を見た。
「やけに嬉しそうじゃないか? 吉田のことだって、いつもの水樹からは想像もできないほど親切だったし」
ギクリとしながらも、水樹は涼しげに笑ってみせた。
「あら、失礼ね。わたしは困っている人に対して、いつだって親切だわ」
「そうかねぇ」
疑わしい目つきの亨から顔を反らし、水樹は吉田に声をかける。
「さあ、里奈ちゃんが戻ってくるまでに、お料理仕上げてしまわないとね。吉田さんにも期待しているわよ」
「うーん、俺、あまり料理は得意な方じゃないんだけど……」
困った顔をした吉田に、水樹はにっこりと微笑んだ。
「追い出すわよ?」
吉田は立ち上がると、里奈が脱ぎ捨てていったエプロンを慌てて手に取った。
「がんばります! やらせていただきます!!」
「期待してるわね」
機嫌よくそう言った水樹の隣で、亨は苦笑しながら頭をかいた。
やっぱり吉田も水樹には逆らえないらしい。
「わたしの誕生日の料理なんだし、それに、どうせわたしは戦力外なんでしょ?」
なんて言ってソファーでくつろぐ水樹を尻目に、亨と吉田が必死こいて料理をなんとか完成させた頃、片手にボストンバックを持った里奈が戻ってきた。ちょうど、水樹が作ったアイスティーを飲みながら、みんなでホッと一息ついていた時である。
「最低限の荷物しか持ってこなかったの。いつでも取りに帰れるし」
言いながら里奈はカバンの中をゴソゴソ探り、一つの茶封筒を取り出した。それをみんなが集まるテーブルの上にポンと置く。
不思議そうに亨が問うた。
「なんだ、これ」
「お母様から預かってきたの。水樹先生にって。お世話になってる間の授業料、生活費、全部込みで百万円入ってる」
亨と吉田はブーッと口からお茶を噴出した。さすがに水樹はそんな下品な真似はしなかったが、思いっきりむせてゴホゴホと苦しそうに咳をした。
「ひゃ、百万円?!」
恐る恐る水樹はその茶封筒を手に取り、中身をのぞいてみた。そこには帯のついた分厚い札束がしっかり入っている。
「足りなかったら言ってくれって言ってたわよ。ちゃんと払うからって」
ヒョウヒョウと言う里奈に、さすがの水樹も声を高くした。
「足りないわけないでしょう?! 多すぎよ!」
「もし仮に余った場合、おつりは取っておいてくれだって。迷惑料らしいよ」
「迷惑料って…」
「どうせお母様のポケットマネーよ。ブランド品の一つか二つをガマンするだけの金額だもの。気にすることないわよ」
呆気にとられる水樹、亨、吉田である。
やがて吉田が誰にともなく呟いた。
「金持ちの金銭感覚ってすごいな。俺んちは普通のサラリーマンだから、感覚が違いすぎて……なんか、もう、ビックリとしか言いようがない」
そして、思い出したようにマジマジと亨を見る。
「―――そう言えば、室井の家も金持ちだったよなぁ? おまえんちもあんな感じなのか?」
「いや、俺んちは普通だぜ。農地売って小銭儲けた成金だから、オヤジはちょっと浮かれてておかしいところもあるけど、財布握ってるお袋が普通人だからな。金銭感覚はいたって普通。俺のところより…」
亨が視線を水樹に移した。
「水樹んちなんて、里奈ちゃんちに近いんじゃないか? 代々続く金持ちだし」
「まさか、そんなことないわよ」
きっぱりと水樹は否定した。
「うちのお母様は“金持ちはドケチだ”の典型みたいな人よ。見栄はバカみたいに張るけど、人の見ていないところでは、そりゃもうお金に汚い人だったわ。まあ、元々あの人はお金持ちに嫁いだだけの庶民だし」
そこまで言ったところで、他人の前で言い過ぎたことに気づいた水樹は、コホンと誤魔化すように咳払いを一つした。
「ま、まあ、とにかく、わたしの家も普通だったわ。里奈ちゃんのお宅は特別ね」
「ええーっ、あたしんちって特別だったのぉ?!」
驚く里奈に、大学生三人は異口同音に肯定の言葉を吐いた。
「特別ね」
「特別だな」
「異常だよ」
ガーン、と里奈はショックを受けた顔をした。が、すぐに笑顔に戻る。
「ま、いいじゃない。お金はあって困るもんじゃないんだし、もらっとけばぁ? あたしとしても歌の練習するお金もいるし、オーディションに着て行く服も欲しいし。そんなことより、水樹先生の誕生パーティー始めよう? あたし、もうお腹ぺこぺこ」
「そう言えば、腹が減ったな。始めるとするか」
亨の言葉を聞いて、すぐに吉田が立ち上がった。
「すぐに料理を温め直そう。きっと死ぬほど美味いぞ。俺、めちゃくちゃがんばったもんな」
「ケーキケーキ。ケーキを真ん中に置いてローソクに火をつけなきゃ」
「里奈ちゃん。あんまり浮かれてちゃダメよ。明日からみっちりお勉強ですからね」
「えー、そんなぁ」
「まあまあ、ともかく今日は楽しくやろうぜ。さあ、パーティの始まりだ!」
四人は豪勢で心のこもった美味しい料理を囲み、楽しくパーティーを始めた。
そんなワケで、四人の奇妙な共同生活が始まることになったのである。
亨の望みは、まだ当分叶いそうにない。
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