Fain day or Rainy day?


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 駆けつけたい気持ちを抑え、水樹は一旦足を止めた。そして、わざとゆっくり玄関に向かう。座って靴を脱いている亨の背中に、機嫌よく声をかけた。
「おかえりなさい」
 イライラしながら帰りを待っていたことなど、絶対に知られたくない。
 驚いたように亨が振り返った。
「あれ、待っててくれたのか? はっははー、感激! 俺、愛されちゃってんなぁ」
 のそりと立ち上がった亨が、嬉しそうに水樹に抱きついた。亨の体から発する酒の臭いが、ぷーんと水樹の鼻をつく。
「ちょっ……ち、違うわよ。待ってたんじゃないわ。勉強してたり、つい夢中になってテレビを観ていたら、偶然こんな時間になっただけよ。っていうか、亨、お酒飲んでるの?!」
 亨を自分の体から引き離しながら、驚いたように水樹は言った。
「ん〜? 飲んでるよぉ」
 へらへらと楽しそうに亨は笑う。どうも、かなり酔っ払っているらしい。
 水樹は微かに眉を寄せた。
「未成年なのに、なにやってるのよ。お酒は成人してからしか飲んじゃいけないのよ」
「まあ、そうカタイこと言うなって。大学生になれば、誰だって酒くらい飲んでるぜ? 俺なんて、高校生の頃から親父の晩酌に付き合ってたし」
 そう言いながらフラフラした足取りで廊下を歩き、亨は居間に向かう。水樹はその後を追いながら、何気なさを装って訊いた。
「で、楽しかったの?」
「そりゃ、もう!」
 居間に着いた亨はそのままキッチンへと直行した。そして、グラスに水道の蛇口から水をついで、ごくごくと喉をならして一気に飲み干す。
 水樹は顔をしかめた。
「ちょっと、水道の水なんて飲まないでよ。汚いじゃないの!」
 カラになったグラスを流しに置いた亨が、水樹に肩をすくめてみせる。
「水は水だろ? 死にはしないって」
 言い終わると、亨はなんだか意味深な目つきで、自分の隣に立つ水樹を見つめた。
「な、なによ?」
 怪訝そうな顔を水樹はする。そんな水樹に、亨がいきなり抱きついた。そして、嬉しそうに言う。
「やっぱ水樹最高! 世界一の美人。俺って幸せ者!」
 いきなりそんなことを言われて、ビックリするのと嬉しいのとで、つい水樹は赤くなってしまう。
 テレ隠しに怒った顔をして、水樹は亨の胸をトンとついた。自分を抱く亨の体を軽くおしのける。
「お酒臭いの嫌い」
「ごめん、ごめん」
 笑いながらそう言うと、亨は居間のソファーに腰を下ろした。そこから、おいでおいでと水樹を手招きする。
 言われるがままに水樹が隣に座ると、そんな水樹の脇に手を入れた亨が、そのままヒョイと水樹の体を持ち上げた。そして、自分の膝の上、向かい合わせになるように座らせる。
「ち、ちょっと」
 水樹が慌てていると、亨は愛しくて大切でたまらないものを見るような目で、水樹を優しく見つめた。そして言う。
「実はさ、いつも仲良くしてくれてる先輩が、今日の歓迎会に彼女を連れてきてたんだ。それがまたすっごくカワイイ彼女でさぁ、愛想はいいし気は利くし優しいし、その場にいた野郎全員がデレデレしてたってワケ」
「ふ〜ん?」
 急に他人の彼女を褒めちぎる言葉を聞かされて、ワケが分からず水樹が首を傾げる。愛想もよくないし気も利かないし、優しくもない自分に対する嫌味だろうかといぶかしる。
「………で、なにが言いたいの?」
「うん、それが聞いたらその彼女、水樹と同じK大らしいんだ。しかも、去年のミスK大に選ばれたらしいんだよ。さすがってな感じでさ。先輩もさ、それを自慢したくてわざわざ彼女連れてきたんだな、きっと。本当にかわいい彼女だったもんな」
 聞いている内に、水樹はちょっと不機嫌になってきた。
 やはり、亨の口から他の女を褒める言葉を聞くことは、気分のいいもんじゃない。何気に不愉快そうな顔をしていると、それに気づいた亨が水樹の顔をのぞきこんだ。
「どうした?」
「別に、なんでもないわよ」
 プイと水樹がそっぽを向くと、亨が嬉しそうな顔をした。
「あ、もしかして、嫉妬したとか?」
 水樹は無言でいることでそれに返事をする。
 そんな水樹の頬を、亨は優しく撫でた。
「俺さ、その彼女を見てるとかわいそう、っていうか、申し訳ない気持ちになってさ」
「どうして?」
 水樹が問うと、亨はにやりと笑った。
「だってさ、彼女の栄光も今年までだろう? 来年のミスK大は水樹に決まってるもんな。いや、下手すると、今年にもそうなるかもしれない」
「………バカね。お伊達たってなにもでないわよ」
「お伊達たりなんかしないさ。俺は心底そう思ってんだ」
 赤くなった水樹のあごに亨は指をそえた。そして、その唇に自分の口を近づける。水樹は目を閉じてそれに答えた。
 重なり合った亨の口からは、微かにアルコールの味がした。
 唇に亨の温もりを感じながら、水樹は不思議に思う。
 亨の口から酒の味を感じることを、自分が気持ち悪いと思わないことが不思議だった。
 水樹は潔癖症だ。かなりのキレイ好きである。だから、普通だった自分の口と他人の口を合わせるというだけでも、かなり気持ちの悪いことなのである。それがさらに、相手の口から自分の口の中に、なにかの味が入り込んでくるのである。
 相手が亨以外の別の人なら、自分はきっと吐いている。気持ち悪くなって、トイレに駆け出していることだろう。
 でも、亨が相手なら平気だ。嫌でもなんでもない。
 こういうことを体験する時、自分がどんなに亨を好きかを水樹は実感させられるのだ。
 長いキスが終わった後、水樹を優しく抱きしめながら亨は言った。
「あー、もう俺、水樹にメロメロだ。料理下手でサラダに生の白菜入れたって、たまににんじんの皮の代わりに自分の指切ったりしたって、そんなことどうでもいいくらい水樹のことが好きだ。そういうちょっとヌケたところもひっくるめて、水樹のことが好きだ。俺、水樹と暮らせて本当に幸せ!」
 それを聞いた水樹はバツの悪い顔をする。
「料理が下手で悪かったわね。でも、仕方ないでしょう? 今までやったことがなかったんだもの。いつもお手伝いのサキさんやしてくれていたし。白菜を生で食べさせようとしたのだって、一度のことじゃない」
「でも、普通はしないよな、そんなこと」
 亨は笑う。
「それに、今はもう覚えたみたいだけど、洗濯機や掃除機の使い方も、水樹は知らなかったもんな。最初の頃、何枚服をダメにしたことか」
「ど、どうせわたしは、なんにもできない箱入り娘よ。悪かったわね、役立たずで!」
「そういうところがまた、かわいいんだけどな」
 亨がなんとも言えない熱い目で水樹を見つめた。
 ドキッと水樹の胸が高鳴る。
 時刻は真夜中。家の中は亨と水樹の二人きり。しかも、水樹は亨の膝の上にいたりなんかするのだ。そして、この沈黙――――――。
 なんとなくヤバイ…かも。
 水樹の胸がドキドキを妙な動悸を始める。そんな水樹を、亨はやっぱり熱く見つめるのだ。
 自分の腰を支える亨の手に、熱がこもったような気がする。
「……水樹………」
 亨の声は甘い。
 どうしよう、「アレ」を求められたららどうしよう。
 水樹の頭の中が、軽いパニックを起こし始めた。
 この雰囲気の中でそれを求められて、どうやって拒否すればいい?!
 これまで何度も自問自答して、それではやはり見つけられなかったその答え。
 ―――――いや、でも、ちょっと待って。
 亨の真摯な瞳を見つめながら、冷静になろうと水樹は自分に言い聞かせた。
 考えてみれば、そもそも拒否する必要があるのだろうか?
 そりゃ、確かに裸を見られるのは恥ずかしい。情報によると、初めての時はすごく痛いのだそうだ。
 でも、今よりもっと亨と深い関係になれるのであれば、それはとても魅力的だ。それに、恥ずかしいのは最初のことだけで、一回やってしまえば、後は気にもならなくなるような気もする。
 ああ、でもやっぱり怖い。とは言え、興味がないワケでもないのだ。
 頭の中は、もうゴチャゴチャだ。
 心臓がひっくり返りそうなほど胸が激しく動悸を繰り返す。
「なあ、水樹?」
 そんな水樹に、亨が問うような視線を向けた。
 ああ、もう、なるようになれっ!
「な、なに、どうしたの、亨?」
 覚悟を決めてそう問い返した水樹に、ささやくように亨が言った。
「俺、眠くなった」
 ――――――――――――――――――は?
 水樹の目が点になる。
「夜更かしは美容の天敵だろ? 俺も今日は久しぶりに酒飲んで疲れたし、そろそろ寝ようぜ」
「……………」
 呆けたような顔を水樹を、亨が不思議そうにのぞき込む。
「どうした、変な顔して?」
 カーッと、これ以上ないくらいに水樹の顔が真っ赤になった。
「なっ、なんでもないわっ!」
「そうか?」
 座らせた時と同じように持ち上げ、亨は水樹を自分の膝の上から下ろす。そして、いつもの明るい笑顔で言った。
「軽くシャワー浴びるから、水樹は先に寝てていいぞ」
「わ、分かったわ。それじゃ、おやすみっ!」
 水樹は逃げるようにして、自分の部屋へと駆け戻ったのである。
 バタンと閉めたドアに体をもたれかけて、顔を両手で覆う。
「バ、バカじゃないの、わたしったら。勝手に一人で先走ったりして!! 亨には全然そんな気はなかったっていうのに!」
 恥ずかしさのあまり、顔から火を噴きそうである。
 亨には気づかれなかっただろうか。自分がそんな勘違いをしていたことに。
 もし気づかれているのなら、もうこのまま死んでしまいたい!
 頭を何度もブンブン振ると、水樹は自己嫌悪におちいりながら、急いでベッドへと潜り込んだのである。  亨が気づいていませんように、と祈りながら。

 そして一方、亨はというと。
 バスルームで熱いシャワーを頭にぶっかけながら、悶々とした気持ちを必死になって押さえつけていたのである。
「もう、こりゃ拷問に近いぜ、まったく…よう」
 よこしまな下心を洗い流すかのように、ひたすら頭にお湯をかけた。
 あの時、よくもまあ水樹を押し倒さずにガマンできたものだと、自分自身に感心する。
 でも、実はかなりヤバかった。
 自分の膝の上に座る水樹。
 それはもう、本当にキレイでかわいくて大好きで。
 そうは見えなかったかもしれないが、ぐおぉぉぉぉっ、と、もう死ぬ気になって、亨は水樹に襲いかかりたい気持ちを抑えつけていたのである。
 頭の中では、天使と悪魔が壮絶な戦いを繰り広げていた。
 渋っていた水樹に、共に暮らすことをゴリ押ししたのは自分だった。
 うんとうなずいてもらった時には、そりゃもう小躍りするほど喜んだものである。いや、実際に小躍りして水樹にあきれられた。
 それが、まあ、今になって、これほど辛い思いをさせられることになるとは!
 だって、大好きな水樹といつも一緒にいて、楽しく笑い合って、キスして、好きな時に抱きしめることができて、それでいて、ある一線を越えることだけは許されないのだ。
 まさに蛇の生殺し。拷問以外のなにものでもない。
 このマンションに越してきた当初、水樹が自分のことを怖がっていることに、亨は気づいていた。
 最近ではそういうこともなくなったが、自分が体に触れるたび、ビクンと震える水樹の
体。
 頭もいいし感もいいから、なにをそんなに怖がっているのかも、亨にはちゃんと分かっていた。
 だからこれまでの三ヶ月間、そういうことに興味のある素振りをまったく見せることなく、紳士として接することを心がけてきたのである。
 この家を、水樹にとって心落ちつく場所にしてあげたかったから。
 ポンプを一押ししてシャンプーを手に取り、それでガシガシと頭を洗う。そう、まるで邪念を振り払うかのように。
 水樹が好きだ。
 すごーく好きだ。
 もう、たまらないくらい好きなのだ。
 だから、一緒に暮らすことを望んだし、それが叶って嬉しかった。
 水樹にしても、最初の頃の変な警戒心もなくなり、今では自分との暮らしを楽しんでくれているように思える。それには確信が持てる。
 やっと築けたこの温かい空間を、なにがなんでも壊したくないと、亨はそう思っていた。
 でも、そのためには、自分がひたすらガマンするしかない。
 辛い。これは本当に、かなり辛い。
 だって亨は若いのだから。言ってみれば、そういうことをヤりたい盛りのお年頃なのである。女には分からないかもしれないが、これは男の生理現象なのだから、どうすることもできやしない。
 そしてもちろん、抱きたいと思うのは水樹だけだった。
 頭についた泡を強いシャワーで洗い流しながら、亨は大きな溜息をついた。
「あーあ、もう俺って本当にいいヤツ。水樹は分かってないんだろうなぁ、俺のこの苦労を。はぁ〜」
 情けない顔してもう一度、亨は大きな溜息をついた。



 翌日。
 寝るのが遅かったせいか、いつもより遅めに目を覚ました水樹が着替えをすませてリビングに顔を出すと、そこには亨がソファーで新聞を読んでいた。
「おはよう」
「おう、おはよう、水樹。早く顔洗ってこいよ。メシの仕度できてるぜ」
「あ、うん」
 水樹が急いで顔を洗い、ダイニングテーブルについた時には、亨はすでに二人の朝食をセットし終わっていた。
 白いご飯に豆腐とワカメのお味噌汁。それにさばの切り身の焼き魚と浅漬けしたお漬物。いかにも「日本の朝!」といった感じのメニューが並んでいる。
 基本的になんでもできる亨ではあるが、料理までも上手かった。
「俺んちの親父って会社経営やってるけど、並行して農業もやってるだろ? 忙しい時期には夫婦そろって畑にいっちゃうから、そんな時は兄貴たちと三人でご飯作ったりしてたんだ」
 以前にそんな話をしてもらったことがある。
「ふーん、そう」
 関心ない素振りしてそう答えたが、実は水樹、かなりムッとしてしまったのである。亨があまりにもなんでもできるから、腹が立ってしまったのだ。
 今日の朝食だって、なんだ、こりゃ! すごくおいしそうじゃないか、くそ。
 しかもこれを、水樹が寝ている間に作ってしまっていたのである。きっと、手際よくパッパと作ってしまったに違いない。
 食事当番は一週間ずつの交代制にしてある。
 水樹が当番の週、朝は決まってトーストだ。それに目玉焼きとかウィンナーとかサラダとかヨーグルトを添えるのであるが、ハッキリ言って、料理と言えるほどのものではない。
 夕食はもっと手の込んだものを作ることにしているが、それだって、そうたいしたものではない。それに、よく失敗もする。
 しかし、いかに料理のデキが悪くても、亨はそれをとてもおいしそうに食べてくれる。残さず全部平らげてくれる。
 それを見ていると、水樹はすごくヘコんでしまうのだ。
 亨といると、なんだか自分がダメ人間になったような気になってしまう。
 もちろん、水樹はダメ人間なんかではない。一般的に考えると、顔はきれいで頭も良くて、大抵のことはなんでもソツなくこなしてしまうのである。
 これまでだって、水樹のことを羨ましがる人間は大勢いた。人が望むものをなんでも持っていると、羨望の目で見つめられてきた。そんな自分に、水樹自身もかなりの自信を持っていたのである。
 でも、そんな自信も、亨といるとことごとく打ち砕かれてしまう。
 相手が亨ならば仕方がない、と思うこともある。でも、やっぱりプライドが高いので、それをくやしいとも思ってしまうのだ。
 なかなか複雑な心境なのであった。
 そしてやっぱり、今日の朝食もとてもおいしかった。
 食事もすみ、食器を流しに下げていた水樹に亨が言った。
「さ、片づけが終わったら出かけようぜ」
「出かけるって、どこへ?」
「あれ、昨日言わなかったっけ? 水樹のアルバイト先」
 流しの前に立ち、洗剤のついたスポンジで皿を洗う亨の隣で、水樹は叫び声を上げた。
「わたしのアルバイト先?!」
「そっ。昨日話したバイト先の先輩なんだけどさ、妹さんの家庭教師探してるんだと。ほら、水樹ずっとアルバイト探してただろ? ちょうどいいかと思って話つけといた。そんで、今からそのお母さんと顔合わせ」
 テキパキと皿洗いの手を休めることなく亨は言ったが、聞いていた水樹は驚きのあまり目を点にして作業の手を止めた。
「ち、ちょっと、なに勝手にわたしのこと決めてるのよ。家庭教師? 嫌よ、そんなの!」
「なんで? 相手は中三だそうだから、K大現役合格したばかりの水樹には軽いもんだろ?」
「そんなこと言ってるんじゃないわ。だって……そんな、しかも今からなんて、あまりにも急じゃないの!」
「善は急げって言うじゃないか。それに、水樹には向いてると思うけどな。だって、接客業なんて、絶対に水樹には無理だし。客や上司に頭下げるのなんて、絶対に嫌だろう? その点、家庭教師なら親御さんや生徒には先生先生って敬われるわけだし、他のヤツと連携して作業するなんてこともないし、まさに理想的じゃないか」
 それを言われると、うっと水樹は言葉につまってしまう。
 確かにこの一ヶ月、水樹はアルバイト先を雑誌見ながら探していたのである。しかし、どうもシックリくるものが見つからず、ダラダラと時間だけが流れている状態だった。
 その理由はまさに亨の言う通り、自分が上司や職場仲間たちといい関係を保って仕事できるか、そこのところに自信がなかったからである。
 でも、それをやることこそが社会勉強。
 気持ちは乗らなかったが、がんばって喫茶店でのアルバイトに面接に言ってみよう、なんて考えていたところだったのである。
 しかし、確かに亨の言う通り、家庭教師というのは案として申し分ないかもしれない。とは言え、もしするのであれば、水樹はその家庭教師先を自分で見つけたかった。これ以上、亨におんぶに抱っこの生活は嫌だったのだ。
 そんなことを考えながら、困ったような思案顔の水樹に、亨が両手を合わせて頭を下げた。
「な、頼むよ、水樹。先輩には今日連れてくって言っちゃったんだ。俺の顔を立てると思って、なっ?」
 そんなこと言われると、嫌とは言えなくなってしまう。
 渋々ながらも水樹は言った。
「分かったわよ。でも、やるかどうかは今日行ってみて、相手を見てから決めるわよ」
 亨は嬉しそうに笑顔を見せた。
「うん、先輩もそれでいいって言ってた」
「向こうがわたしを気に入らないってこともあるでしょうしね」
「ま、そうだけど。でも、多分それはありえないな。水樹と合って話をした途端、一発で気に入るに決まってるよ。なんて美人で知的で気品のあるお嬢さんが来てくれた、なんてな」
 水樹は微かに頬を赤らめて「そんなお伊達にはのらないわよ」とジロリと亨をにらんだ。しかし、すでに気分はノリノリで、先輩宅に行くことを楽しみに思うようになっていたのである。
 ほんと、亨は水樹の扱いが上手い。




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