「好きです、俺と付き合って下さい!!」
突然頭を下げてそんなことを言われ、今井友香は言葉を失った。目を白黒させて、自分の前にいる男子学生をただ呆然と凝視することしかできなかい。
場所はここ、学校の人気の少ない校舎裏である。
つい五分前のこと。
その日一日の授業が終わり、友香は所属している文芸部に向かおうと廊下を歩いていたのである。そして、そこでいきなり誰かから後ろ手に手首をつかまれた。
「え?!」
そのまま、なにがなんだか分からない内に、引きずられるようにこの場所に走って連れてこられたのである。
その男は友香の腕を離すと、くるりとこちらを振り返った。
「好きです、俺と付き合って下さい!!」
そして、いきなりそんなことを言って頭を下げたのである。
突然自分の身に起こった予想範囲外の出来事に、友香の頭は大パニックを起こしていた。
だって、こんな男の子知らない。今まで見たことない。
そんな見知らぬ相手から、いきなり「好きだから付き合ってくれ」と言われたのである。これがパニックにならずにいられるか。
なにも言えず、目を大きく見開いたまま友香がその場で固まっていると、頭を下げていた男子学生が、ほんの少しだけ顔を上げた。そして、上目使いに友香を見る。
「あれ? ノーリアクション?」
そう呟くと、屈めていた腰を伸ばし、片腕を腰に添えた。首だけほんの少し前に突き出し、うかがうような目で友香を見る。
突然のことに大きな戸惑いを隠せないながらも、友香の頭は、勝手にその男子学生の容姿を分析し始めた。
中肉中背、顔立ちは端整で切れ長の目が特徴的。髪は長くもなければ短くもなく、今時珍しくもない赤みのかかった茶色をしていて、無造作ながらもおしゃれにまとまっている。
きっと、それなりに女の子にモテるタイプの人だ、と友香は無意識にそんなことを思う。正直、友香のめちゃくちゃ好みの顔だ。
「ねえ、俺の言ったこと、ちゃんと聞こえてる?」
ボーッとそんな分析をしていた友香は、そう声をかけられてハッとわれに返った。
「え? あ、はい、えっと…………なんだっけ?」
気の抜けたような友香の返事に、男子学生はガックリと肩を落とした。
「なんだっけ、って………俺はおまえに告白したの。分かる?」
少しイライラした様子で、男子学生は友香をねめつける。
慌てて友香は言った。
「あ、そうだった。ごめんなさい。急なことでビックリしずぎてボーッしちゃった」
自分の言ったことが、ちゃんと相手に伝わっていることを確認できた男子学生は、満足そうにうなずいた。そして、言う。
「で、どうなんだよ? 返事は?」
「っていうか、あなた誰ですか? あたし、あなたなんかに告白される覚えは全くないんですけど。あ、もしかして、罰ゲームかなにか?」
友香にしてみれば、当然の疑問である。
廊下を歩いていたら、拉致されるがごとくに校舎裏に連れてこられた。そして、初めて会ったかっこいい男の子から愛の告白をされたのだ。
そのすべてが驚きと謎に満ちている。それに、あまりにも話しができすぎていて、疑心暗鬼にならざるをえない。
これで、友香が多くの男の子たちから憧れの目を向けられるほどの美少女であれば、そんな疑問も沸かなかったかもしれない。でも、残念ながらそうではない。顔は十人並みだし、その他の部分を見てみても、特に人と比べて際立っているところなど一つもない。趣味は読書で成績だって中の中。肩から十センチほど下までのびる髪は、染めることなく真っ黒なままでキッチリおさげに結い上げられている。
つまり、いきなり知らない男の子から告白されるなんて、普通であれば絶対にあり得ないタイプの女の子なのだ、友香は。
しかし、相手の男子学生は、友香の質問を聞いた途端に、またガックリと肩を落とした。そして、大きな溜息をつく。
「お、おまえさぁ、俺のこと覚えてないわけ? ホラ、小学校の時の同級生、園田彰だよ。そ、の、だ、あ、き、ら」
「そのだ……あき…ら? ――――――あ!」
教えてもらった名前を口に出して言った途端、友香の脳裏に一人の男の子の姿が浮かび上がってきた。
瞳を輝かせ、友香はポンッと手を打つ。
「ああ、思い出した。園田彰! 小学校六年間の内、四年間も同じクラスだった、あの彰!」
思い出してもらったことで喜びを隠せず、満面の笑みを浮かべてその男子学生、園田彰は言った。
「そうっ、それそれ! その彰だよ! やっと思い出してくれたか?!」
「うんっ! ………あ、でも、あたしが知ってる彰はあなたとは別人よ」
喜びもつかの間、きっぱりそんなことを言われて、彰はかなり面食らった様子を見せる。
「な、なに言ってんだよ。間違いなく、俺があの園田彰だって!」
驚いて叫ぶように彰が言うと、友香はケロリとこう答えた。
「だって、あたしの知ってる彰ってのは、チビでグズでトンマで泣き虫で、よくクラスのみんなからイジメられてたわ。あなたはとは全然似ても似つかない別のタイプよ。どう考えても別人でしょ?」
「違うよ! 俺は中学の三年間で変わったんだ。正真正銘、俺が小学校の同級生だった園田彰だよ!」
「本当にぃ〜?」
あからさまに疑いの目を友香は彰に向ける。
「本当だって! 本人が言うんだから間違いないよ!」
必死にそう言う彰を、友香は腕を組み、少し冷めたような目でじっと見据えた。
いや、やっぱり違う。どう見ても、あの彰とは全然似ても似つかない別人だ。
「な、なんだよ、その目は。本当に本当だって。ホラ、顔に面影だって残ってるだろう?!」
友香になんとか信じてもらおうと、彰は自分の顔を指差しながら懸命に訴える。
うーん、と小首を傾げながら彰を見ていた友香が、しばらくしてから言った。
「………確かに、昔の面影がちょっと残ってるかも。あの頃と顔の表情が違ったから分かりにくかったけど、でも、今の必死な顔見てると、なんとなく納得できるかも」
そして、にっこり笑った。
「ずい分変わったのね、彰。びっくりするくらいカッコよくなって」
ホッとしたように、彰の顔にも笑顔が戻った。
「よかった、やっと信じてもらえたんだ」
「ごめんごめん。だって、あまりにも変わっているものだから」
笑顔のままケロリとそう言う友香を見て、少し昔を懐かしむような顔で彰は言った。
「俺さ、小学生の頃ずっとイジメられてて………まあ、イジメられると言っても、本格的なやつじゃなくて、からかわれる程度だったけどさ。でも、やっぱり嫌だったし、辛かったんだ。だから、中学校に入学したのと同時に、自分を変えようって努力したんだよ。運動したり、勉強したり、友達いっぱい作ったり、眼鏡をコンタクトにしてイメチェンしてみたり」
「ふ〜ん、がんばったんだ」
彰は誇らしげにニカッと笑う。
「おかげで人見知りもしなくなったし、自分にも自信がついたから、もう人にからかわれたりすることもなくなったよ。俺、本当にがんばったんだ!」
胸を張る彰を、友香は頭のてっぺんからつま先まで、感心したようにながめた。
「うん、もうイジメられっ子の雰囲気なんて、少しも残ってないもんね。それにしても、彰があたしと同じ高校に入学してたなんて、今の今まで知らなかった」
「そっ、おまえってば冷たいんだよ。高校入学してから一ヶ月。隣のクラスにいる俺に、全然気付かないんだもんなー。廊下ですれ違ったことも何回だってあるのに!」
あはは、と友香は笑う。
「だって、そんなに変わってたら、気づかないに決まってるわよー」
ふてくされたように唇をつきだす彰を前に、友香は楽しそうに笑って見せた。そして、チラリと腕時計に視線を向ける。
「本当に久しぶりで懐かしかった。それじゃ、部活に行かなきゃならないからあたし行くね。また今度、ゆっくり話そうよ」
笑顔でそう言い、くるりと背中を向けて立ち去ろうとする友香を見て、彰は目を点にした。そして、慌ててその肩に手をかける。
「お、おいっ、ちょっと待てよ!」
「なーに? あたし、急いでるんだけど」
少し迷惑そうな顔の友香に、彰は思いっきり叫んだ。
「急いでるんだけど、じゃないだろう?! 俺の告白はどうなった?! 返事は?!」
「……………」
必死の形相の彰を、友香はしばらく無表情で見つめた。そして、プッと吹き出す。
「いやぁねぇ、まだそんな冗談言ってるの? もう充分に驚かせてもらったからいいわよ」
「なにが冗談だよ。俺は本気だ!」
友香の肩から手を離すと、彰は顔を赤くした。そして、頭を下げる。
「好きです、俺と付き合って下さい!」
驚きを隠せず、裏返った甲高い声で友香は言った。
「なっ………なんであたし?! っていうか、本当に冗談じゃないの?!」
「冗談なんかじゃない!」
顔を上げた彰が、まっすぐに友香を見ながらキッパリと言う。
「俺は友香が好きなんだ。小学生の頃からずっと! だからこの高校に入学した。友香がここを受験するって人から聞いたから」
それが真剣な告白であることを、ここにきてやっと友香は理解した。ついつい頬が熱くなる。
「で、でもなんで?! 昔ならいざしらず、今の彰ならいくらでもカワイイ女の子を彼女にできそうじゃない。それなのに、どうしてあたしなの?」
一瞬躊躇してから、呟くように彰は言った。
「それは………友香は俺のことイジメたりしなかったから。俺、女の子からもよくからかわれたりしてただろ? やっぱり悔しかったし、悲しかったし、辛かった。でも、友香は一度も俺のことからかったりしなかったから………俺、嬉しかったんだ」
「そ、そうだったんだ………」
「だから俺、その頃からずっと友香が好きだった。バラバラの中学に行って、その間にそんな気持ちも消えるかと思っていたけど、でも、消えなかった。それどころか、逆に気持ちはどんどん大きくなって………」
小学生の頃は大差なかった二人の身長も、この三年の間にずい分と開きがでた。彰もそう背が高い方ではないだろうが、それでも身長160センチの友香と比べると、10センチ以上は背が高い。
昔はあんなにチビだったのに、と、友香はそう思わずにいられない。
小学生の頃は、いつも背中を丸めるようにして歩いていた彰。覇気がなく、陰気な感じさえもしたものだ。
それが、こんなに明るく元気にカッコよくなっちゃって………。
あの頃、彰をいじめて笑ってた女の子たち、今の彰を見たらきっと後悔するだろうな、なんてことを友香は思っていると、彰が言った。
「俺、本気なんだ。友香のことが好きなんだ。だから頼む! もし今他に好きな人とかいないんだったら、俺と付き合ってくれ。頼む!」
なんだかちょっと泣きそうな顔にも見える彰を見ながら、友香は少し考えた。そして、言った。
「悪いけど、彰とは付き合えない」
「え?!」
一瞬にして彰の顔が青ざめる。
「ど、どうして?! やっぱり、他に好きなヤツが………?!」
「別にそういうワケじゃないけど。でも、あたしは別に彰のこと好きじゃないし。いや、嫌いなワケじゃないよ? ただ、特別な意味で好きじゃない、っていう意味で。そりゃ、懐かしいとは思うけど、今の時点で恋愛感情は全然ないもの。それに………」
チラリと友香は彰の顔を見た。
それに気づいた彰が体を固くする。
「それに、なんだよ? まだなにかあるのか?」
「う…ん。実はあたし、顔のかっこいい男ってあまり好きじゃないのよ。だってさ、隣に並ぶと人に見比べられるでしょう? あれってさ、きっとすごく嫌な気分になると思うのよね。だから、やっぱり彰とは付き合えないわ」
「えぇ――――――っ?!」
えへへ、と笑いながら「ごめんねぇ〜」と友香は両手を合わせた。その前で、彰は茫然自失してしまっている。
「な、なんで……? だって、俺、そりゃあ自分がイジメられたくなくてがんばったっていうのもあるけど、でも、三年後、絶対かっこいい男になって友香に告白するんだって、それでがんばれた部分も大きかったのに………」
「ほんと、ごめんねぇ。その点に関しては、無駄な努力させちゃったみたい。でも、いいじゃない、それでも。かっこよくなったんだし、あたしに執着する必要なんて全くないんだから」
「そ、そんな………だって……」
すっかり脱力してしまっている彰の肩を、ポンポンと友香は叩いた。
「ま、がんばって新しい好きな人でも見つけてよ。それじゃ、あたし部活があるからこれで」
腑抜けになったような彰をその場に残し、友香は歩き出した。
彰を恋愛対象としては見れないけれど、でも、かっこいい男から告白されたとなると、やはり気分がいいものである。
ウキウキした感じで顔をニヤつかせながら歩いていた友香は、急に後ろから聞こえた大声に、ビクッと肩を震わせて振り返った。
彰が地面に体をうっつぶして泣いていた。号泣である。
「ち、ちょっと!」
面食らいながらも、友香は急いで彰に駆け寄った。そして、自分もしゃがみこみ、地面に手をついて泣いている彰をのぞきこむ。
「ね、ねえ、どうしたのよ?!」
「だ、だって………友香が俺と付き合ってくれないって言うんだもん……うぅっ」
「―――――――は?」
思わず友香の目は点になってしまう。
「だって、俺、友香のことが好きなんだ。だからカッコよくなったのに……三年間がんばったのに……うっ、うっ、うわーん!!」
友香は信じられないといった顔で、泣きまくる彰の頭部を見つめた。
だって、十六才にもなろうという男が、こんなことくらいで大泣きするなんて。
「と、取り合えず体を起こしなさいよ。ほら、制服が汚れちゃうでしょう?」
「制服なんか汚れたってかまわないよ」
そう言いながらも、友香に腕を引っ張られて彰は顔を上げた。その顔は、もう無残なくらい涙でボロボロである。
「俺は友香が好きなんだ。だから、友香と付き合いたいんだよ!」
「そ、そんなこと言われたって………」
「なあ、いいだろ? 俺と付きあってくれよ。俺、友香が好きなんだよー!」
大粒の涙をぽろぽろ流し、嗚咽をかみころしながら彰は言う。
そんな姿を見ている内に、なんだか友香は自分が彰をイジメているような、そんな気持ちになってきてしまった。
「ねえ、取り合えず泣きやんでよ。お願いだから」
ヒックヒック言いながら、彰は自分の袖で目をごしごし拭いた。でも、拭いたそばからまた新しい涙が目からあふれ出す。
友香は溜息をつくと、ポケットからハンカチを取り出した。そして、彰の目から流れる涙を拭ってやる。なんだか今と似たような場面を、以前にも経験したことがあるような気が友香にはした。
泣いている彰。それにハンカチを差し出す自分。
小学生の頃の記憶のフラッシュバックだろうか。
されるがままに涙を拭かれながら、彰は友香に視線を向けた。そして、声を振り絞るようにして言う。
「俺、もう勉強するのやめる。バカになる。コンタクトやめて眼鏡に戻す。髪も黒に染めなおしてキッチリ七三分けにして頭に撫でつける。スポーツだって下手なフリする。ダメ男になる。そしたら友香、俺と付き合ってくれる?」
「………そんなことしたら、また昔みたいにみんなからイジメられるかもしれないよ? それでもいいの?」
こくり、と彰はうなずいた。
「それでもいい。友香が俺のこと好きになってくれるんだったら、それでもかまわない。友香だけ俺を好きでいてくれるなら、俺はそれでいいんだ」
「………彰…」
友香の胸がドキッと鳴った。
涙と鼻水で汚れた情けない顔。でも、どうしてだろうか。その顔が、なんだかとても愛しいものに友香には感じられる。
「ね、ねえ、彰。どうしてそこまであたしのことを想ってくれるの? 確かに小学生の頃、あたしは彰をイジメなかったかもしれないけど、でも、今の彰なら、優しくしてくれる女の子なんてたっくさんいるでしょう? しかも、あたしなんかと違って顔のかわいい子で。それなのに、どうしてあたしなの?」
「そんなの俺にだって分からないよ」
ずるずると鼻をすすりながら彰は言った。
「分からないけど、とにかく友香が好きなんだ。友香に俺の彼女になってもらいたいんだ。理由なんて、なくたっていいだろう? だって、俺はこんなに友香が好きなんだから」
彰の言葉を聞いているうちに、友香の胸はドキドキと激しく高鳴り始めた。つい頬を赤くなる。
「なあ、俺また努力してダメ人間になるから、頼むから友香、俺と付き合ってよ。お願いだよ」
友香は彰から顔を背けた。胸のドキドキは激しくて、なんだか正面から彰の顔を見ていられない。
「友香、頼むよ……」
「――――――分かったわよ」
「え………?」
彰の目が大きく見開いた。
チラリとそんな彰を見てから、友香は少し怒ったような顔でそっぽを向いた。テレ隠しである。ずっと彰を見ていると、胸がドキドキしすぎて困ってしまう。
「分かったって言ったの。そこまで言われたら、付き合わないワケにはいかないものね。仕方がないから付き合ってあげる」
そんなことを言っていながら、友香の胸は尚もドキドキいい続けているのだ。
そして、彰はと言うと。
それまでの悲し涙が嬉し涙へとバトンタッチし、またもやエグエグ泣きじゃくっていた。
「ありがとう、友香。俺、友香に本当に好きになってもらえるように、努力してカッコよくない男になるから」
「あ…あー……それは、いいよ、別にそのままで」
友香がそう言うと、キョトンとした顔を彰はした。
「なんで? だって、友香はカッコいいタイプの男は嫌いなんだろう?」
「うーん、そうだと思ってたんだけど、ま、そのままでいいよ。あたしもせっかく彰と付き合うんだったら、ありのままの彰を好きになりたいもの」
それを聞いた彰が、感動に胸を震わせる。
「やっぱり友香は優しいな。俺、友香と付き合えることになって、本当に幸せだよ」
それにはなにも応えず、友香はただにっこりと笑った。
そして、心の中でこんなことを思う。
どうやらあたし、カッコいいタイプの男が嫌いなワケじゃなくて、単に、情けなくて守ってあげたくなるタイプが好きなだけみたい。
自分がそういうタイプの人間だったことに、友香も今初めて気がついた。つまり、世間でよく言う世話女房タイプ、なワケである。
だからもう、さっき彰の泣く姿や鼻水たらした顔を見て、驚きながらもそんな彰がかわいくて、なんとかしてあげたくなって、もうすっかり彰に心を奪われてしまっていたのだ。
しかも、彰は恥ずかしげもなく「好きだ好きだ」と連発して言ってくる。友香が女心をくすぐられてしまい、すっかり彰にハマッてしまったことも、まあ、仕方のないことと言えるかもしれない。
結局、小学生の頃にイジメられっ子の彰を友香がイジメなかったのは、その手のタイプが好きだったからに違いない。母性本能をくすぐられるというか、なんというか。
そんなことを思いながら、友香は地面に座り込んだままの彰の腕を引っ張り、立ち上がらせてあげた。そして、膝についた土や汚れをパンパンとはたいてやる。ついでにポケットからティッシュを取り出し、それで鼻水までかませてあげた。
そんなこんなの世話焼きが、友香をとても幸せな気分にさせてくれる。
どうにも顔のニヤニヤがとまらない。
「さ、行こう」
友香が笑顔でそう言うと、彰も嬉しそうな顔で大きくうなずいた。
思いがけず、理想のタイプの男に出会い、しかもそんな相手と付き合えることになった。
今日は自分にとって人生最良の日かもしれない、と、そんなことを思いながら、友香は満面の笑顔で彰の隣を歩いた。
なんだか楽しい高校生活が始まりそうな、そんな気がした。
おわり
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