亨が家路を急いでいる頃。
水樹、里奈、吉田の三人は、けっこう深刻な顔をして話し合いを続けていた。内容はもちろん、柏木の落としていった爆弾の処理方法について、である。
「会うしかないわね」
憮然とした顔で水樹がそう呟いた。
それを聞いた里奈が、心配そうに水樹を見つめる。
「で、でも、大丈夫かな。さっきも言ったけど、あのお兄様が本気であたしのことを心配して、あんなことを言い出したとは思えないの。きっと、なにか悪いことを企んでるに違いないわ」
吉田も真面目な顔でうなずきながら、里奈に同意する。
「里奈ちゃんのいる前でこう言っちゃなんだけど、あいつは危険だよ。二人きりで会うなんて論外だ」
「だけど、それが向こうの要求してきた条件なんでしょう? こちらの方が分が悪いのだもの、仕方ないわ」
唇を指で軽くおさえ、考えるようにしながら水樹は言う。
「とは言っても、こちらとしてもいくつかの条件を出させてもらうつもりよ。相手の言いなりになって、黙って従うなるつもりはさらさらないわ」
「どんな条件を出すつもりだい?」
「そうね…まず、会う時間帯は昼間であること。そして、場所もこちらから指定した喫茶店かなにかの、とにかくひと目の多いお店であること。この二つは絶対に譲れないわね。それと、一応里奈ちゃんの同席も求めるべきでしょうね。まあ、却下されるでしょうけど」
不機嫌そうに、水樹はふーっと息を吐いた。
本来であれば、柏木とは二度と会いたくないと思っていた水樹である。
そもそも、初めて会った時から柏木のことは大嫌いだし、頬にキスをされたことで、その思いはさらに深まっている。
が、しかし、今回は会わないわけにはいかないだろう。
里奈の母親である柏木夫人の性格を、水樹はすでに熟知している。男と同棲しているこの家に里奈を住まわせていることが知れると、ちょっと面倒なことになりそうだ。
里奈が心配しているように、告訴とまではいかないだろう。彼女は夫の職業柄、世間体をとても大切にしている人間である。ことを公にすることは望まないはずだ。ただ、弁護士を送り込んでくるくらいのことは、してくると予想できる。もちろん、慰謝料の請求をするために。
どちらにしろ、家庭教師の職は間違いなく解雇される。さらに、里奈の次のオーディションも、今後は受けることを許してはくれないだろう。どれをとってみても、水樹には面白くないことばかりである。
「ごめんなさい。あたしが無理にお願いしてここに来たりしなければ、こんなことにはならなかったのに」
うなだれる里奈に、水樹は微笑んでみせた。
「里奈ちゃんが悪いんじゃないわ。あなたが居候することを認めたのは、わたしと亨なんですもの」
「とにかく悪いのは柏木だよ。……しかし、なにを考えてるんだ、あいつ。水樹ちゃんを呼び出して、一体なんの話をするつもりなんだ?」
腕を組み、首を傾げて吉田は考える。
「もしかして、水樹ちゃんのこと狙ってるのかなぁ。くどくつもりとか?」
「お兄様には美咲さんっていう彼女がいるのよ。そんなことって、あるかしら」
里奈の言葉に、吉田は肩をすくめてみせた。
「あるに決まってるよ。里奈ちゃんは知らなかったかもしれないけど、あいつはその美咲って子以外にも、何人も付き合っている女がいるんだぜ?」
「そ、そうなの?」
「ま、本気の付き合いじゃなくて、遊びみたいだけど」
おもいっきり里奈は顔をしかめた。
「最低! 自分の兄ながら、ほんっとに最低の人間ね。水樹先生、本当に大丈夫かなぁ。あたし、なんだか嫌な予感がする…」
「大丈夫よ。さっきの二つの条件は、必ず飲んでもらうもの。わたしと会うことが目的なら、それくらいの条件は向こうも飲むはずよ。それに」
水樹は里奈と吉田に視線をまわした。
「あなたたち二人にも協力してもらうから」
「協力って、なにをするの?」
「そうね、取り合えず、わたしと柏木さんが会う店の前で、二人には張っていてもらうわ。なにか起こったら、すぐに駆けつけてもらえるように」
「うん、確かにそうした方がいいな。それだとかなり安心だ」
納得したように吉田はうなずく。
「それと、二人には柏木さんの弱みみたいなものをつかんで欲しいの。それが見つかれば、状況もこちらの有利になるかもしれないし。吉田さんはバイト仲間をあたってみて」
「よしきた」
「里奈ちゃんは、今思いつくことでなにかある?」
水樹に問われ、首をひねって里奈は考えるが、やがて落胆したような声をあげた。
「だめ、思いつかない。あたしに対する態度以外では、お兄様ってば本当に優等生なの」
「だったらいいのよ。わたしは大学関係をあたってみるわ」
と、大体そんな感じで話がまとまったところで、吉田はちらりと時計に目を向けた。
「室井のやつ、今日は本当に遅いな。ったくもう、この肝心な時に!」
「ホント、早く帰ってくればいいのに」
同じように時計を見ながら、里奈も呟く。
「亨さんがいてくれたら、なにかもっと色々なアイデアとか出してくれて、対策も練れる気がするのになー」
それを聞いていた水樹が、ピクリと眉を動かした。
そして、二人に笑顔でこう言った。
「二人とも、柏木さんとわたしが会う件なんだけど、亨には黙っていてもらえるかしら」
え、と二人は目を見開く。
「ど、どうして? 亨さんにも相談に乗ってもらった方がいいんじゃない?」
「そうだよ。俺もその方がいいと思う。あいつ、頼りになるし」
「いいのよ。とにかく黙っていて」
水樹がピシャリと二人の意見を跳ね除けたが、しかし、吉田は引き下がらない。
「水樹ちゃんは室井と付き合ってるんだろう? だったら、アイツには知る権利があると俺は思う。それに、俺は室井の友達だから、理由なく黙っていろと言われても、はいそうですか、とは言えないよ」
筋の通った反論をされて、一瞬、水樹は黙り込んでしまう。
「それに、あいつがいた方が、水樹ちゃんだって心強いだろ?」
「あら、そんなことないわよ? 平気だわ」
笑顔で水樹は答えた。
そう、亨がいなくても、自分はちゃんとやれるのだ。
柏木に会うくらいのことがなんだ。確かに警戒してかかる必要はあるが、それにしたって、ただ会って話をするだけのことである。わざわざ亨に報告する必要なんてどこにもない。
それなのに。
里奈にしろ吉田にしろ、亨がいると心強いだとか、頼りになるだとか、まるで水樹だけでは心もとないといったような言い方をして、そのことに水樹は腹を立てていた。
亨がいなくても平気だ。心細くなんかない。水樹には上手くやり通す自信があったし、その能力を自分が有していると確信している。
亨には頼らない。自分は弱くない。
だから、今回のことは亨に内緒にしておく必要があった。
知られてしまうと、どんなに水樹が大丈夫だと言ったところで、亨は必ず介入してくるだろう。それは亨の水樹に対する愛情からくるものだることはよく分かっているが、今の水樹にとって、それは余計なお世話以外のなにものでもない。
「亨に話すと、心配のあまり、ことを大袈裟にしてしまうと思うの。亨は柏木さんをものすごく嫌っているから、特にね。話がこじれるだけのような気がするわ」
「まあ、ね。確かにそれはそうだな。水樹ちゃんとアイツを二人で会わせるくらいなら、自分が自ら乗り込んでいってヤツをぶん殴る、くくらいのことはしでかしそうだ」
吉田は水樹が柏木から頬にキスされたことも、それを見た亨がどんな反応をしたのかも、よく知っている。どんなに亨が柏木を毛嫌いしているか、もだ。
「でも、室井はそんなにバカじゃないと思うけど。冷静になって考えるべきところは、ちゃんとわきまえることができるんじゃないかな。今回は、ほら、訴訟だなんだと、ことが色々と複雑だし大きいから」
「もちろん、それはわたしにだって分かっているわ」
吉田を安心させるように、水樹はにっこりと美しく余裕を持って微笑んで見せた。
「でもね、少しでも話がこじれる可能性があるのなら、それは排除したいの。なんと言っても、ただ会うだけなの話なのだから」
「で、でも、相手はあのお兄様なのよ。なにを考えているか知れたもんじゃないわ」
それまで黙っていた里奈も、不安を隠しきれない様子で口を挟んだ。
「あたしが言うのもなんだけど、お兄様もバカじゃないわ。もし悪巧みを企んでいるとしたら、一筋縄じゃいかないかも。それに、お兄様は男で、水樹先生は女だもの。やっぱり……ちょっと心配」
「だからこそ、会う日時と場所はこちらが指定するし、あなたたちにも監視してもらうんじゃないの。ね、そんなに心配しなくても大丈夫よ」
とその時、玄関の鍵をはずす音がガチャンと聞こえた。亨が帰ってきたのである。
「とにかく、亨にはなにも言わないでちょうだい。その必要を感じたら、わたしからちゃんの話しするから。吉田さんも分かったわね?」
念を押すように自分を振り返った水樹に対し、渋々ではあったが吉田もうなずいた。
そんな風なヒソヒソ話が、自分のすぐ傍で行われているとは露知らず、な亨である。。高柳と楽しく飲んだ酒による酔いのため、微かに頬を赤く染めた彼は、ゆっくりと廊下を歩いて三人の待つ居間へと陽気に顔を出した。
「ただいま〜。おっ、三人様お揃いで!」
「おかえりなさい」
隠し事をしていることなどまるで嘘のように、水樹はごく自然に返事を返した。しかし、他の二人はそうもいかない。
「お、おかえり」
「おっ、遅かったのね、亨さん。みんなで心配してたのよ」
態度はソワソワしているし、表情も引きつったように堅い。
もちろん、亨はそれにすぐ気づいた。が、素知らぬフリをして、申し訳なさそうに頭をかいた。
「ごめんごめん。仕事が終わって、ちょっと飲んできたんだ」
「誰と?」
吉田の問いに、亨は機嫌よく笑う。
「バイト先のお客さん。なんかさー、俺、ビックリするような人とお知り合いになっちゃったよ」
「えー、どんな人ぉ?」
好奇心旺盛な里奈が、すぐに亨の話にくいついた。
「っていうかさー、亨さんの昼のアルバイトって、なにやってるの?」
「そう言えば、俺も接客業としか聞いてなかったなぁ」
「わたしもだわ。いったいどんな仕事をしているの?」
吉田と水樹も問うような視線を亨に向けた。
それに対し、亨はいたずらっ子のような顔でニヤニヤ笑う。
「ままま、それはちょっと置いとこうぜ。それよりさ、聞いてくれよ。俺が今日一緒に飲みに言った相手、なんとっ、あのTAKAコンツェルンの御曹司だぜ! 未来の総裁!!」
「えぇ―――っ???!!!」
聞いていた三人は、同時に大きな声を上げた。期待していた通りの反応に、亨は嬉しそうに胸を張る。
「な、すごいだろ?」
「すっ、すごいってもんじゃないだろう!」
信じられないといった顔で、吉田が亨につめよった。
「なんで? どういう経緯で?!」
「さっきも言ったけど、店のお客さんなんだ。そんな大物だって知ったのは、今日なんだけどな。俺もビックリしたよ」
「どんな人だった? おじさん? それとも若いの? うわー、興味あるぅ!」
「はっきり訊いたわけじゃないけど、多分三十代の半ばくらいかな。男前でさ、すごくいい人だったよ。名刺もらっちゃった」
高柳からもらった名刺を胸ポケットから出すと、亨はそれをテーブルの上に置いた。三人はそれを、まるで高価な宝石を見るような目で食い入るように見つめる。さすがの水樹でさえも、少し驚いた表情をしていた。
と、そこで、それまでの笑顔のまま、何気ない調子で亨が言った。
「―――んで、そっちはどうした? なにかあったんだろ? 俺が家に入った途端、みんなしてオタオタしちゃってさ」
油断しまくっていただけに、水樹、吉田、里奈は思わずハッと息を飲んだ。
しかし、さすがに水樹はすぐに体制を立て直し、ごく冷静な顔を亨に向けた。
「なんのこと?」
しかし、吉田と里奈はそうもいかない。
あからさまに動揺を顔と態度にあらわした。
「なっ、なんにもないよ。な、なあ、里奈ちゃん」
「そ、そそ、そうよ。なにもないわよ。お、おかしな亨さんね。うふふふふ」
ひきつりまくった笑顔を浮かべる二人を、亨は胡散臭そうにじっと見つめた。そして、最終確認を取るかのように、次に視線を水樹に移した。
「水樹、ホントか?」
威嚇的ではなく、あくまでも穏やかにそう訊いた亨を見つめ、水樹も一瞬返事をためらった。
しかし。
「………本当よ」
やはり本当のことをは言わず、水樹は嘘を突き通した。胸の奥に息苦しさを感じたが、それをグッと堪えて微笑んで見せる。
「なにもないわ」
「………そっか。ならいいんだ」
安心したような笑顔を亨も見せた。
「俺の勘違いだな。ごめんごめん」
「いいのよ、気にしないで。きっとお酒のせいだわ」
とそこで、なにかに気づいたように水樹は亨をキッとにらんだ。
「あなた、またお酒を飲んだのね。未成年のくせにダメじゃない」
「かたいことは言いっこなし。夏休みだしさ、それにたまにのことなんだからいいだろ?」
のほほんと亨は答えたが、対して水樹は心配するような目を亨に向けた。
「口うるさく言うともりはないの。ただ、体に悪いんじゃないかと心配なだけ」
亨は嬉しそうに笑った。
「水樹からそんなに心配してもらえるんだったら、俺、今度から毎日酒飲もうかな」
「バカ言って。さあ、早くシャワーでもあびていらっしゃい。お酒臭い人、嫌いよ」
「そりゃ大変だ。水樹に嫌われたら、俺は生きていけない」
冗談っぽくそう言いながら、亨は腰をあげた。そして、風呂場へと歩きかけた亨は、フとなにかを思い出したように足を止めると、振り返って水樹に言った。
「なあ、水樹。次の土曜日なんだけど、暇?」
少し考えてから水樹は答える。
「土曜日は里奈ちゃんの家庭教師があるだけだけど…どうして?」
「たまには二人っきりでデートでもどうかなぁと思って。もし水樹が大丈夫なようだったら、俺もバイトの休みを取ろうかと思ってたんだけど…そうか、家庭教師があったか」
すると、二人の会話を聞いていた里奈が突然立ち上がった。
「あたしなら大丈夫。水樹先生がいなくても、サボらずにちゃんと勉強するから!」
「そうだよ。あ、そうだ、よかったら俺が里奈ちゃんの勉強見てやるよ。こう見えて、俺だってT大現役合格生だからさ、まかせてくれよ」
吉田も慌ててそう言ったが、それでも水樹は思案顔である。
「でも、やっぱり悪いわ。里奈ちゃんに勉強教えるのは、わたしの仕事なんですもの。お金だって、あんなにもらっていることだし」
「平気よ! たった一日のことじゃない!」
「そうだよ。俺も居候させてもらってる身だし、たまには二人に恩返しさせてくれよ」
なんだかもう必死とも言える様子で「行ってこい、行ってこい」と勧める里奈と吉田の横で、亨がにこりと笑った。
「ありがたく二人の好意に甘えようぜ?」
この亨の笑顔に、水樹もやっとその気になった。
「…そうね、たまにのことですものね。行きましょうか」
「そうこなくっちゃ」
亨は嬉しそうに両手を高く上げてガッツポーズをした。
「よし、それじゃ俺は風呂に入ってくるから、あがったら一緒に予定立てような」
にこにこ笑顔でそう言うと、亨は鼻歌交じりに歩きながら風呂場へと消えていった。
「ふふ、亨さんたら本当に嬉しそうだったねー」
微笑ましくそう呟いた里奈は、横目でチラリとうかがうように水樹を盗み見た。そして、ガッカリしたのである。
亨と同じように、さぞかし水樹も嬉しそうな顔をしているに違いない。そう思っていたのに、実際の水樹は、相変わらずとても冷静な顔のままだったから。
二人きりでデートすることを、嬉しく思っているのかいないのか。それすら読み取ることができない。
向かいを見ると、吉田も渋い顔をしていた。おそらく、里奈と同じことを思っているのであろう。
水樹が本当に亨のことが好きなのか。
二人の関係が、とても曖昧なものだと聞いて以来、里奈の心の中には、ずっとそのことがわだかまりとして残っていた。
二人が互いに好き同士であると信じたい。
そう思っているのに、それを裏づけてくれるような態度を、水樹は一切とってくれやしない。
たださっき、お酒の件で水樹は亨のことを心配していたようであったが、飲酒したのが里奈や吉田だったとしても、水樹は同じことを言ったかもしれないので、それはなんの確証にもならない。
こうなったらもう直接本人に訊いてみようか。里奈はそう思ったが、恐くてそんなことできやしない。そんな質問をしようものなら、例の冷たい刺すような目で水樹から見られ、部屋の温度を氷点下にまで下げてしまいそうな気がする。考えるだけで寒気がする。
里奈は視線を吉田に向けると
「吉田さんが訊いてよ、男でしょう!」
とアイコンタクトで迫ったが、吉田も里奈と同じ気持ちなのか、口を一文字にぎゅっと閉じた状態で、「冗談じゃない」といった感じでブンブン首を振った。
まったくもうっ、と里奈が頬を膨らませると、それに気づいた水樹が首を傾げた。
「なにやってるの、里奈ちゃん?」
ギクリとして里奈は背筋を伸ばした。そして、とってつけたような作り笑顔を水樹に向ける。
「う、ううん。なんでもない! それよりさっ、水樹先生!」
「なに?」
「お兄様に会うこと、本当に内緒にしてていいの? あたしたちが隠し事してること、亨さん気づいてたみたいだったけど」
「うん、あれは間違いなく気づいてるよ」
一緒になって吉田も言う。
「後でバレるくらいなら、今話しておいた方がいいんじゃないか? 後で知ると、きっとあいつ怒るぜ?」
「平気よ。バレなきゃいいだけの話だもの」
しかし、水樹の気持ちは変わらない。
「二人とも、ちょっと神経質になりすぎているんじゃない? 柏木さんと会って、ただ話をするだけなのよ? たいしたことじゃないわ。でしょう?」
確かにそうである。里奈と吉田は目を合わせると、そのまま黙り込んでしまった。これ以上なにを言っても、水樹は考えを変えてはくれないだろう。
二人はうなずきながらも、心の中で重いため息をついた。
さて、こちらは風呂場の亨である。
「怪しい。絶対になにか隠し事をしてる」
あきらかにおかしかった里奈と吉田の不審な態度を思い出しながら、亨は顔をしかめてそう呟いた。
一体なにを隠しているのか。
気にはなったが、それを問いつめることは得策ではないと判断し、亨は誤魔化されたフリをした。
隠しているのにはワケがある。そして、それはきっと水樹の希望なのだ。
水樹が知られたくないと思っていることを、無理に聞き出したりはしたくない。隠しているのには、きっとワケがあるのだから。
「まあ、危ないことじゃないだったらいいんだけど…」
少し心配ではあったが、水樹を信じようと亨は思った。変に束縛することは、きっと水樹のためにならない。それどころか、余計なストレスを溜めさせるだけである。
それに、もしかすると、今度のデートの時にでも、水樹はそれを話してくれるかもしれない。
取り合えず、このまま黙って様子を見てみよう。
そんなことよりも、すでに亨の心はデートに思いをはせていた。
そう、デートト! 久しぶりに水樹とデート!!
そのことを考えると、思いっきり心が弾んでくる。
二人で心から楽しめるように、十代の学生に似合いの健全なデートをしよう。手をつなぎ、子供のようにはしゃいで、色々なストレスがすべて吹っ飛ぶような、そんなデートをするのだ。
でも、人目のない所に誘い込んで、こっそりキスすることははずせない。
野外でキスしたりしたら、きっと水樹は怒るに違いない。でも、そんな怒った顔さえも、亨にはたまらなくかわいいものだったりするワケだ。
シャワーを浴びながら、亨は自分の股間に目を向けた。そして、命令するような口調で自分の相棒に話しかける。
「俺はがんばる。水樹が大切なら、おまえもがんばれ。きっといつか、その努力が報われる日がくるからな! お互いにそれまでがんばろうぜ!」
エイエイオー、と二人(?)でそう励まし合うと、亨はデートでどこに出かけるかを考えながら、楽しそうに鼻歌を歌った。
さて、そんな亨の鼻歌をBGMに、第二章はこの辺で幕を閉じることになる。
亨に隠し事をしてしまった水樹。それに気づきながらも、水樹を信じて問いつめることをしなかった亨。
大切に思うゆえにとったその行動が、後に自分を大激怒させることになろうとは、この時の亨には思ってもみないことなのである。
そして、柏木の目論見とはなんなのか? 水樹はそれを上手く回避させることができるのか? 亨と水樹にラブラブの日々がやってくるのは、いつのことなのか?
続きはまた次回の第三章で詳しくお伝えすることにする。
それでは、今回はこの辺で………。
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